■アルゼンチンのサッカーとは何か
では、アルゼンチンのサッカーとは何か?
一つは先ほども述べたようにショートパスをつなぐ攻撃的なスタイルのサッカーだ。ワンタッチバスをつないで次々とスペースに走り込む選手を使って、最後はフリーになったアンヘル・ディマリアが決めた2点目のゴールなどは、まさにその典型のような得点だった(僕は見ていて初優勝した1978年大会でのレネ・ホウセマンのゴールを思い出した)。
同時に、アルゼンチン・サッカーの素晴らしさはその守備にもある。サポーター(インチャ)たちが一斉に「ビエン(よしっ)!」に叫ぶ瞬間だ。
フランスがトップにいるムバッペにパスを入れようとした時に、CBのクリスティアノ・ロメロがガツンと当たって跳ね返したり、ロドリゴ・デパウルが体を入れて相手からボールを奪い取った瞬間に、彼らは一斉に「ビエン!」と叫ぶ。
パスをつなぐ華麗な攻撃と体を張った守備こそがアルゼンチンのサッカーなのだ。そして、ピッチ上の選手たちと多くのサポーターが共通して理解しているのだ。そうしたサポーターの力によってアルゼンチンの伝統を継いだ選手たちが育ち、そして、彼らはそうしたアルゼンチン・サッカーの伝統と誇りを取り戻すために戦い続けたのだ。
何のために戦うのか? 荒廃した祖国や民族のためや、災害で打ちひしがれた人々のためでも、もちろんいい。戦う目的はいくつも考えられる。だが、自国のサッカーの伝統と誇りのために戦えるというのは最も純粋で美しい目的なのではないだろうか?
日本のサッカーも、いつに日にか、日本人に共通して理解されるような、そしてすべての選手がそのために戦うことができるようなスタイルと伝統を築き上げることができるといいのだが……。そして、そういうものを持てる日が来れば、日本は本気でワールドカップの頂点を狙えるようになる。
おやっ、今夜はテレビを見ていただけの僕の話もちょっと熱を帯びてしまったようだ。