■ラグビーのようだった、かつてのサッカー
だがそもそも、サッカーが誕生した1863年には、ルールはずいぶん違うものだった。1863年につくられた最初のサッカールールには、「フェアキャッチ」というものがあり、相手がけったボールをノーバウンドでキャッチ(もちろん手で)することを意味していた。最初のルールでは、フェアキャッチあるいはワンバウンドでボールをキャッチした選手は、そのボールを抱えたまま相手ゴールに向かって走ることもできた。まるでラグビーである。
ただ、こうしてボールを抱えて走ってくる相手に対しては、相手チームの選手は体当たりしたり、つかんだり、足を引っかけたり、すねをけったり、さらにはつかみ倒すといった、いまなら即刻レッドカードが出そうな、当時も通常は認められていない守備をすることができた。そのため、たいていの選手は、フェアキャッチした後には違う道を選んだ。ボールをキャッチすると同時に片方の足のかかと部分でグラウンドに「マーク」するのである。こうすると、その地点からフリーキックをけることができた。
したがって、初期のサッカーでは、かなり頻繁に手が使われていた。ただし、ゴールに入れる(といっても当時はクロスバーもネットもなかったから、両ポストの間を通り抜けるだけだが)ために投げたりパンチしたり手でボールをもったまま走ることは禁じられていた。
「フェアキャッチ」が認められていた背景には、当時のボールの形状が完全な球体でなかったうえに、足での「ボール技術」のレベルが非常に低かったことがあると思われる。相手のロングキックを胸でコントロールしたり、小野伸二ばりに魔法のように足元に止められる選手など皆無だったのだ。