■19世紀には存在したGKグローブ

 だが、サモラもシュトゥールファウトもヤシンも、もちろん、イタリアのジョバンニ・ビオラのまねをしてグローブを着けるようになったというカリーソも、「グローブ元祖」ではない。1974年のワールドカップ決勝でヨングブロートが素手でプレーしたように、1960年代までは素手のGKも珍しくはなかったのだが、どうやら「GKグローブ」には140年近い歴史があるらしいのである。

 最初はゴールに向かって飛んだボールを誰でも手を使って止めていいことになっていたサッカー。それが特定の選手(ゴールキーパー)に限られるようになったのは、サッカー羅誕生から8年後の1871年のことだった。そしてその14年後の1885年には、英国のあるスポーツ用具メーカーがGK用グローブの特許を認められているのである。革製で、インド産のゴムを貼り着けてクッションとしたものだったが、実用化には至らなかったらしい。

 だが1890年代半ばにはGKたちがグローブを使用していた証拠がある。アーチー・ピンネルという名のスコットランド人GKが、所属のチョーリーというクラブ(イングランドのランカスターリーグ)のグラウンドで簡素なグローブをしている写真がみつかったのだ。

 20世紀の初頭には、「グローブを使っていた」というGK自身の証言が残されている。ストーク・シティやサンダーランドで活躍し、ウェールズ代表でもあったレイ・リッチモンド・ロースという選手がその手記に書いている。サンダーランドにいた1909年のものとされるタバコのおまけカード(シガレットカード)の写真には、分厚いウール製の手袋でボールをもつロースの姿が残されている。

 「雨など悪コンディションのときには、グローブを着用することが非常に有用である。ただ、私自身は素手でプレーするのが好きで、天候が回復したら、すぐに外してゴールの後ろに放り投げた」と、ロースは話している。

 濡れたボールが手から滑り落ちるのを防ぐとともに、大事な手が冷たい雨に濡れて冷やさないことも、グローブ着用の重要な目的だったことがわかる。本物のウール(羊毛)は、油分を含み、撥水性があるので、雨でも手を濡らさず、体温を守る働きをするのである。

(3)へ続く
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