■選手の「成長記録」を大事に

――身体情報などの科学的数字を生かした「サイエンスサッカー」を進めるうえで、注意しなければならないことはありますか。

片山 データを取り始めてから何週間かしたとき、選手が「僕、きょう何キロ走れてましたか」とか、「時速30キロ以上出てましたか」と聞いてくるんですよね。何も秘密にすることはありませんから、「あの厳しい状況で30キロ以上出ていたよ」とか、「30キロ以上のスプリントが17回もあった」などと教えるのですが、励みになると同時に、最も気をつけなければならないのは、そのデータを欲しいが故に走り始める選手が出ないようにすることです。

――主客転倒ですからね。

片山 どんなタイミングで何をどう伝えるか、それは監督としての考えどころだと思います。

――よくわかります。人間管理のポイントですからね。

片山 そうです。データの積み重ねは、僕は選手の「成長記録」だと思っています。技術や試合理解の成長を、身体データとリンクさせて考えることで、見えてくるものがたくさんあります。ここで成長が滞ったのはなぜか、成長しているのにケガにつながったのはなぜか。練習の強度が高すぎたり、回復ができていないのか、クールダウンの質やケアの時間が少ないのか、そうしたことを、身体データと関連づけて見ていくことが大切だと思っています。

――なるほど。

片山 それと、大事だと思うのは、カタパルトで取った身体データを次のチームに引き継ぐことです。

――え! プロでもですか。

片山 はい、プロ同士でも。出すのはその選手のデータだけで、チームの秘密が出てしまうわけではありません。データは個々の選手の「成長記録」なので、その選手がどう成長してきたか、それを見て、新しいチームでは「この選手なら、こういう使い方をしたら伸びるのではないか」と考えることもできる。データの引き継ぎは選手にとってプラスになるもので、それは日本のサッカー全体のプラスになるはずです。当然、代表チーム、選抜チームなどで取られたデータも、所属チームにすべて引き継ぐべきです。

――素晴らしい考えだと思います。

片山 そして本来なら、日本サッカー協会が選手の少年時代からのデータを管理し、育成に役立てるべきだと思っています。サッカー選手は、チームを変わるたびにそれまでの成長経過など無視され、行った先のチームの事情だけで使われています。しかし何度も言いますが、トレーニングや試合で取られる選手の身体データは、それぞれの選手の「成長記録」です。それを手にチームを移っていくというのが、理想の姿ではないでしょうか。

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