■「体験的」から「科学的」へ

 従来、サッカーの指導は多分に「体験的」なものだった。指導者は、選手時代の経験をもとに理想の(あるいは勝利に近い)サッカーを考え、それを実現するための練習やトレーニングを考案して選手たちを鍛えてきた。

 11人もの選手たちがほとんど制約なくプレーにからみ、しかも主に足でボールを扱うという不確実な要素がありながら、サッカーは、ときに奇跡のようなハーモニーと一体感をもったチームをつくり出してきた。だがそれは見る間に消えていく虹のように短期間のものだった。その原因のひとつは、指導が「体験的」だったためではないか。なぜチームとして高いパフォーマンスができたのか、そこに「科学的」な裏付けがあれば、いつどこに出るかわからない「虹」ではなく、常に実現できるものになるはずだ―。それが、片山さんがいま取り組んでいる「サイエンスサッカー」の意味ではないかと、今回の話を聞きながら私は理解した。

――サッカーの指導にサイエンスをもちこむということですが、どのようなことですか。

片山 大きく分けて2つの手法があります。ひとつは、身体的なデータを読み解き、個々の選手がいまどういう状態にあるのかを把握してトレーニングや試合に生かすこと。そしてもうひとつが、映像の活用です。

――身体的なデータというのは、ルールブック(第4条)で認められている「電子的パフォーマンス・トラッキングシステム(EPTS)」を使ったデータということですね。Jリーグの選手たちがユニホームを脱ぐと、女性のスポーツブラジャーのようなものをしていますが、あれに取りつけられているのですか。

片山 そのとおりです。具体的には、オーストラリアの会社が開発した「カタパルト」という装置で、2000年のシドニーオリンピックに向け、アスリートのパフォーマンスを最大化するために考案されたものです。

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