大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第93回「リーグ・システムはサッカーの基本」(2)プレミアリーグの源流をつくったスコットランド人の画像
豊かな歴史があってこそ、現在のサッカーがある

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、サッカーで最も重要なもののひとつ。

■頻発した試合のキャンセル

 このころ、唯一の公式戦であるFAカップの試合は圧倒的な人気があり、どのクラブにとっても大きな収入減になっていた。その盛況に続こうと、地域ごとにさまざまなカップ戦が行われるようになっていた。そのほかのクラブの財源は、個別交渉で決められた親善試合の入場料収入だった。

 ちなみに、当時のサッカーの試合には「チケット」はなく、入場料はゲートで現金を払うというシステムだった。江戸時代の芝居小屋のような「木戸銭」だったのだ。英国のトップクラスのサッカーで、前売り・当日売りを問わず、全席にチケット発行を義務づけられるのは、1923のFAカップ決勝で当時12万5000人収容のウェンブリー・スタジアムに30万人もの人が押しかけた後のことだった。

 だがこうした親善試合は、頻繁に中止になった。カップ戦で思いがけなく勝ち上がってしまったり、もっと収入になりそうな試合が見つかると、クラブは簡単に試合をキャンセルしてしまったからだ。イングランド中部のバーミンガム市に1874年につくられたクラブ、アストンビラは、1887年のFAカップで中部(ミッドランド)のクラブとして初めて優勝を飾った強豪だったが、1888年の初頭、予定されていた親善試合が5週連続でキャンセルされるという事態に陥った。

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