大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第88回「食べられないコーン」(2)生誕地はロサンゼルスの路上、進化はイギリスにての画像
試合前のウォーミングアップのために、ピッチ上にはたくさんのコーンが並べられる。(c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、いまやトレーニングに不可欠なもの。

■日曜日のヒーロー

 私が学生時代からの仲間との「日曜チーム」でプレーヤーとして活動していたころ、すなわち1970年代、試合が組めなかったときには、野っ原のようなところに集まって果てしなくミニゲームを続けたものだった。当時は小さなコーンなどといったしゃれたものはなかったから、2メートルほどの幅のゴールの「ポスト」として使われたのは、誰かのシューズだった。ゴール前の激しい争いで「ポスト」はよく踏まれたから、仲間のうち毎週2人は、踏みつぶされたシューズを履いて帰宅するという羽目になった。やがて夏季には、みんな練習場にゴム草履でくるようになった。

 日本サッカーリーグのチームなどがトレーニングにコーンを使い始めたのは、そのころ、1970年代ぐらいだったのではないだろうか。それを聞きかじった私のチームのあるメンバー、電気工事を請け負う小さな工務店を経営していたのだが、彼はある日仕事現場で使っていた大きなコーン4個と、それをつなぐ2メートルほどの黄色と黒のバー(両端に直径10センチほどの輪がついており、それをコーンの先端にかけられるようになっていた)2本を抱えて現れた。そしてそれを使って見事に「即席ゴール」を組み立てて見せると、チームメート全員が「オー!」と叫んでスタンディングオベーションを贈った。

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