ボールは久保の右からきた。普通なら右足でひっかけるようにシュートを打つ状況だ。GKアルハブシはそのタイミングに合わせてステップを踏んだ。だが久保は落ち着いていた。ボールを自分の前を通して得意の左足側に置き、すかさず左足を振り抜いたのだ。強いシュートではなかった。しかしタイミングをずらされたアルハブシは反応できず、ボールはゴール右隅に吸い込まれた。私の時計では後半の47分00秒。「4分間」と示されたアディショナルタイムも残りわずかの決勝ゴールだった。もちろん、得点が決まったのは、埼スタの北側のゴールである。

■「大黒様」が生まれた場所

 翌年2月には、「最終予選」の初戦、北朝鮮戦で、こんどは後半なかばに投入された大黒将志が日本代表を救った。立ち上がりに小笠原がFKを決めて先制した日本だったが、後半に追いつかれ、試合はアディショナルタイム。右タッチライン際から小笠原が送ったクロスは北朝鮮GKがパンチではね返すが、それがペナルティーエリア正面にいた日本の福西崇史の足に当たってエリア内にこぼれる。エリア中央の大黒はゴールに背を向けていたが、まよわず反転しながら左足を振り抜き、ゴールに流し込んだのだ。これも北側のゴールだった。

 2年連続、ワールドカップ予選の初戦で引き分けという苦しいスタートになるのを救ったアディショナルタイムの決勝ゴール。けっして勝負をあきらめない「ジーコ魂」とも言われたが、その一方で、早くも日本代表についている「埼スタの北側ゴール」の強運が語られるようになる。

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