しばらくすると、トットナムのキース・バーキンショー監督がはいってきてソファのひとつに腰を下ろし、「あのPKさえなければ、試合はもつれていただろう。あれはPKではないと思うね。でも試合は90分間あるということを忘れてはいけないね」などと話して席を立つ。そこにアストンビラのトニー・バートン監督が現れてバーキンショー監督と握手、代わってソファに腰を下ろすと、記者たちに囲まれて話し始めるという形だった。記者たちの多くはメモをとっていたが、中にはブランデーのグラスを手にしたままの者もいた。
寒い季節でなかったら、配られたのは、1パイントのビールだったかもしれない。しかしこの監督会見は、非常に成熟したスポーツの文化を感じた。監督と記者たちが、互いにリスペクトしながら、大声を上げるでもなく、大人同士が静かに会話を交わす場だった。
■日本と海外の広報担当者の違い
だがもちろん、最近は世界のどこに行っても、試合後の記者会見は広い会見室で行われ、クラブや大会のスポンサーロゴを並べたボードの前に司会者と登壇者(監督)が座り、向かい合う形で座った記者たちから順番に質問を受けるという、コロナ前のJリーグでも行われていた形である。国際試合では、監督の横に通訳が座り、ひと区切りごとに通訳をする。
司会は、クラブや連盟の広報担当が務めるのが普通だ。記者会見は広報担当の業務のひとつだからだ。ところがこの広報担当の仕事の仕方に、日本と海外では大きな違いがある。Jリーグでは、広報担当は監督の話をよく聞いていて、その話、あるいは通訳が終了すると記者たちのほうを見て「次の質問は?」と聞き、挙手されるのを見て「2列目の方」などと指す。
私が広報担当の教育係なら、手を上げている記者を見て、たとえば「○○新聞の××さん、お願いします」と言いなさいと指導する。もちろん、会見のルールで「質問者は、最初に所属メディア名と名前を言う」ことになっているのだが、自分で名前を言うのと、司会者から名指しにされるのでは、記者が感じる責任感がまったく違う。名前を呼ばれると、より強い責任感が生まれるのである。