大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第80回「敗軍の将、兵を語る」(3)「ヨーロッパの会見で感じたスポーツ文化の成熟」の画像
2020年のAFC U-23アジアカップで記者会見に臨む森保監督。右はJFA広報で、英語への通訳を担当する種蔵里美さん 提供/AFC

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「試合後のひと仕事」。90分間を過ぎても続く場外での「延長戦」の意義を、サッカージャーナリスト・大住良之が考える。

■記者室で配られたブランデー

 欧州のサッカーでも、古くから今日のようなきちんとした記者会見が行われていたわけではない。1982年にトヨタカップで来日するアストンビラ(イングランド)の取材に行ったことがある。その試合後の「監督会見」が風変わりだった。

 この日の試合相手はトットナム・ホットスパー。余談だが、主審はクライブ・トーマス。1978年のワールドカップのブラジル対スウェーデン戦で、1-1で迎えた終盤、ブラジルが右CKからジーコの鮮やかなヘディングシュートで決勝点を決めたと思われたのだが、キックの瞬間に試合終了の笛を吹いてこのゴールを無効とした「有名レフェリー」だった。試合はアストンビラが後半立ち上がりのPKをきっかけに4-0の勝利を収めたのだが、試合後の「監督会見」が変わっていたのだ。

 10月末の試合。午後3時キックオフながらハーフタイムには照明が点灯され、終盤には身にしみる寒さになった。試合後、記者控え室に行くと、そこは、机や椅子が置かれた「ワーキングルーム」ではなく、あちこちにソファが置いてある「居間」のような小さな部屋だった。記者たちがはいってくると、ウエーターが現れ、小さなグラスに入れたブランデーを配って歩く。何はともあれ体を温めてもらおうというわけだ。記者たちにアルコールを出すことに、私は大いに驚いた。

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