大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第78回「ピッチの二〇三高地」(2)「1937年、竜は美しく天に舞い昇った」の画像
緑のピッチに引かれた真っ白なライン。80年間以上、足すものもなく、引くものもなく、完成された美しい姿を保っている。(c)Y.Osumi

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「エリア前の変な物」。サッカージャーナリスト大住良之が、歴史と算数に挑む。

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 さて、PKは1891年に生まれたが、フリーキック(FK)の一種であるので、当然のことながら相手チームの選手はボールから9.15メートル離れていなければならない。そしてPKを守るのはGKただひとりということになっているから、他の選手はボールより後ろにいなければならない。ところがどこにいたらいいのか、ときどき醜い争いになった。

 1902年にペナルティーエリアができて、キッカーと守備チームのGK以外はすべてペナルティーエリア外にいなければならなくなり、この問題に決着がついたかに思われた。しかしこんどは、ペナルティーエリアのライン上での「位置取り合戦」が勃発する。

 1923年はじめには、この醜い争いをなくすために、ある提案が出された。ペナルティーエリアの2本の縦のライン(長さ16.5メートル)をそれぞれ3分割し、横のライン(約40メートル)を11分割して、GKを除く守備側の10人と、GK、2人のフルバック、そしてセンターハーフの計4人を除く攻撃側の7人を、それぞれのポジションに割り振って立たせるというのだった。キックするのは、攻撃側の7人のうちのひとり、センターフォワードであるという。それぞれが3~4メートル幅の位置に立つので、余計な争いはなくなるというものだった。

 だがこの提案は実施されず、代わりに、この1923年6月のルール改正において、守備側GKとキッカーを除く全選手はペナルティーエリア外で、なおかつペナルティースポット(つまりボールが置かれた位置)から9.15メートル以上離れた場所にいなければならないことになった。

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