「ゴール裏真正面から目撃した」ワールドカップの優勝ゴール【追悼ゲルト・ミュラー】(3)の画像
1974年の西ドイツ対オランダ 決勝ゴールを決めた西ドイツのゲルト・ミュラー 写真:Colorsport/アフロ

デア・ボンバー(爆撃機)の異名を持ち、リトルゴールを量産した1970年代を代表する西ドイツのストライカー。70年ワールドカップ・メキシコ大会は得点王、74年西ドイツ大会では、ヨハン・クライフ率いるオランダと決勝で激突し、オランダのゴールに突き刺した決勝点ゴールでそのプレースタイルを世界中に知らしめた。長く所属したバイエルン・ミュンヘンで記録した、ブンデスリーガ通算365ゴールは永遠に破られることはない大記録だ。その、ゲルト・ミュラーが75歳で亡くなった。ゴール裏で目撃した、歴史的ゴールの記憶が蘇る——。

第1回はこちらより

■43分の決勝ゴールは真正面での出来事だった

 1974年ワールドカップで西ドイツの優勝を決めたミュラーのゴールは、実は僕は幸運にも目の前で見ることができたのだ。この大会を最後に、28歳で代表から引退したミュラーにとっての、代表最後のゴールだった。

 僕は、この大会のチケットはもちろん事前に準備して出かけたのだが、ある日、フランクフルトのユースホステルに泊っている時に盗難に遭ってしまったのだ。警察にも届けたものの、もちろんチケットは戻ってこない。そこで、決勝戦前日に市内の広場の闇マーケットでチケットを買って観戦したのだ(当時は、こうした形でのチケットの売買はほとんど野放しに近い状態だった)。

 そして、その購入したチケットが偶然にも、前半西ドイツが攻撃する側のゴール裏だったので、43分の決勝ゴールは僕の真正面での出来事だったというわけなのだ。

 しかし、ゴール裏から見ていると、彼がどのようにゴールを陥れたのかよく理解できなかった(たぶん、どんな角度から見ても同じだろう)。

 後から映像を再確認すると、ボンホフからのクロスを、ミュラーは右足に当ててファーストタッチで自分の体の後ろ、つまりゴールから遠い位置に置き、すぐに反転して右足でシュートを撃っているのだ。背番号8を付けたオランダのGKヤン・ヨングブルートは、ミュラーのシュートに対してセービングを試みることもできず、立ったまま見送っている。

 最初に映像をチェックした時には(当時は、映像チェックも簡単にはできなかったので、ミュンヘン市内の電器店の店頭にあったテレビを見た)、ミュラーはトラップミスをしてあんなところにボールが行ってしまったのかとも思ったが、ミュラー本人のインタビューによれば「狙い通りの位置にボールを置いた」ということらしい。

 つまり、相手のGKにも、DFにも届かない位置にボールを置いてから反転してシュートしたというわけだ。

 もちろん、点で合わせた普通のゴールも量産したミュラーなのだが、やはりミュラーを語る時には「リトルゴール」を語るしかないのであろう。

 世界的にも、歴史的にもなかなかいないタイプのFWと言っていい。点で合わせるタイプというと、よくフィリッポ・インザーギが引き合いに出される。日本で言えば佐藤寿人氏だろう。しかし、点で合わせるゴールと「リトルゴール」は、明らかに違ったものだ。

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