大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第67回「過剰なゴールパフォーマンスの愚」(2)元祖は「黒豹」エウゼビオの画像
ゴールパフォーマンスの「始祖」エウゼビオ(1966年W杯イングランド大会ハンガリー戦のゴール後) 写真:AP/アフロ
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ゴールの喜びは、ピッチに立つチームメートやベンチの仲間、スタジアムやテレビの前のサポーターとともに分かち合うもの。派手なゴールパフォーマンスはスタジアムの華だ。新しいパフォーマンスを思いつき、その練習を重ねても披露するチャンスがないアタッカー。大舞台でゴールを決め、どう喜んでいいのかわからないディフェンダー。どちらも「サッカーあるある」だが、ゴールした選手が喜びを爆発させる様は見ている側も幸せな気持ちになるーー。

■元祖パフォーマーと言えるのは?

 誰が最初に「ゴールパフォーマンス」らしいものを始めたのか、それはよくわからない。1950年代から1960年代にかけてレアル・マドリードで活躍し、ペレが現れる前には「世界最高の選手」と言われていたアルフレード・ディステファノが両手を広げて走る写真を見たことがあるが、これは「パフォーマンス」というよりただの喜びの表現だった。

 だが最初に世界的な影響を与えたのは、1966年ワールドカップ・イングランド大会で得点王になったポルトガルのエース、エウゼビオではなかっただろうか。

 エウゼビオはアフリカ大陸南東部のモザンビークで生まれ、この地域を植民地にしていたポルトガルに18歳で渡るとたちまちベンフィカでスターになった。得点を決めると、彼は疾走しながら高くジャンプして両足を前後に大きく開き、上半身を思い切りそらせたところからこぶしを握り締めて伸ばした右腕を後ろから前へと強く振り出した。ジャンプの高さ、体全体を使ってのパフォーマンスは、彼の驚異的な身体能力を見せつけるもので、相手選手たちの無力感を増幅させたに違いない。

 彼のこのパフォーマンスを、モリスは「ジャンプしての空殴打」と分類している。その動作を「失点にくじけた敵選手の頭を打ち砕いている」と解釈し、こぶしを振り上げて前に振る動作を「圧倒的な力を象徴的に誇示したいと思うときに用いる」と解説している。礼儀正しく控え目だったエウゼビオに「相手の頭をなぐる」という意識があったようには思わないが、たしかに、相手はさらに打ちのめされただろう。

 このエウゼビオのパフォーマンスを、日本代表選手として大会を現地イングランドで見た釜本邦茂が真似をするのである。ただ、釜本の場合、ジャンプしたときの両足がそろっており、エウゼビオほどの躍動感、実際に「この一撃で獲物の頭蓋骨を打ち砕くだろうな」というような迫力はなかった。だが、釜本の「ジャンプしての空殴打」こそ、日本の「ゴールパフォーマンス」の元祖だった。

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