■盛んになったのは1970年代から

 伝統的に、サッカーではゴール後の歓喜の表現は意図的に控えられてきた。それは英国で生まれたスポーツの文化というものだった。得点を挙げた選手も何ごともなかったかのように振る舞い、勝利をつかんだときにも握手をするぐらいで淡々と更衣室に引き揚げるのが、紳士的な行為とされていたのだ。「ノーサイド」の精神はラグビーの専売特許ではなく、「フットボール」の伝統だった。

 だが第二次世界大戦後、プロサッカーがひとつのピーク時を迎えたころ、航空交通の発展とともに急速にサッカーの国際化が進んだ。その結果、ラテンヨーロッパや南米の選手たちの得点後の爆発的な喜びの表現や抱き合う姿が、英国や北欧の「伝統的」なサッカーの世界に大きな衝撃を与えた。

 そうした行為に、イングランドなどのオールドファンは眉をひそめた。しかしやがて受け入れ、自分たちも行うようになった。そして1970年代には、さまざまなパフォーマンスが花盛りになった。ただそれは1970年代にはいってからの話である。1960年代には、イングランドではまだ「ノーサイド」や相手への敬意が残っていた。

 日本で初めてイングランド・リーグの試合がテレビ放送されたのは1968年4月、後に『ダイヤモンドサッカー』と呼ばれる東京12チャンネル(現在のテレビ東京)の番組だった。その第1回は、トットナム・ホットスパーがマンチェスター・ユナイテッドを2-1で下した試合。だが実は2年近く前、1966年の9月に行われた試合の映像だった。1960年代の半ば、ゴール後の喜びは控え目で、試合が終わるとどちらが勝ったかわからないほど両チームとも冷静な表情で戻っていった。

第2回につづく
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