大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第62回「サッカーか、フットボールか」(3)「日本サッカー協会」の真実の画像
まさに足のスポーツ 撮影/中地拓也
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本誌を創刊したときのエピソードだ。一部に、なぜ「サッカー批評」なのか、なぜ「フットボール批評」じゃないのか、という意見があった。このスポーツの本名は「フットボール」なんじゃないの、世界では「フットボール」をプレーしているんじゃないか、と。しかし、日本ではこのスポーツは「サッカー」なんだと一蹴された。見識である。きわめて正しい。サッカーは、このスポーツの日本語での正式名称なのである。

 世界の国々では、サッカーは何と呼ばれているのだろうか。私は東京新聞の夕刊に1993年から「サッカーの話をしよう」というコラムを連載しているが、あるとき、その記事をまとめて書籍にしたいという奇特な編集者が現れ、その言葉を実行に移して6巻も刊行してくれた。彼は本の表紙をどうするか必死に考え、結局、21カ国語で「サッカー」を表現した文字を並べてくれた。

■「蹴球」から「サッカー」へ大転換

 それによれば、大半の言葉が中国語の「足球」のように「フットボール」の直訳で、「足」という言葉と「ボール」という言葉をくっつけた造語になっている。数少ない例外のひとつがイタリア語で、「カルチョ」という。有名な話だが、イタリア人たちは、英国人がやって見せた競技を中世からイタリアで行われていたボール競技(歴史的カルチョ)から発展したととらえ、「カルチョ」としたのだ。

 また韓国では、漢字の「蹴球」を読んだ「チュック」が定着している。この競技が日本の統治時代(1910~1945年)に導入され、広まったため、当時の日本での正式名称であった「蹴球」が定着したのだ。

 1921年に誕生した「大日本蹴球協会(JFA)」は、1931年から機関誌『蹴球』を発行した。この名称は整合性がとれている。JFAは第二次世界大戦中に体協の一部となったが、戦後復活して1947年に「日本蹴球協会」と改称する。ところが1948年に復刊された機関誌には、占領軍に配慮したのか、それとも当時言われていたように「日本語をローマ字表記に」という主張に流されたのかはわからないが、『SOCCER』という英語字のタイトルがつけられていたのである。そして高橋龍太郎会長の巻頭言を読むと、「サッカー」というカタカナ表記が出てくる。

 だが機関誌は1953年には『蹴球』の名称に戻り、1958年までその名称のまま続けられる。ところがここで再び「クーデター」が起きる。1959年1月号で、突然カタカナの『サッカー』となったのだ。

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