■「サッカー」の誕生秘話
「サッカー」というのは、不思議な言葉だ。
19世紀なかば、イングランドでは「フットボール」がどんどん盛んになり、試合も増えていた。しかし中世に村対抗のばか騒ぎのような形で大人数で行われてきたフットボールは、この世紀にはいってパブリックスクール(私立の中等教育機関)でそれぞれルールづくりが行われて「スポーツ」となり、その卒業生たちがさまざまな大学に進んでさらに競技熱が高まったこのころの「フットボール」は、名前は同じでもまさに千差万別だった。
「統一ルールをつくろう」という動きは何度もあったが、最終的にロンドンにできた「The Football Association(フットボール協会)」が定めたルールが定着し、広まっていった。この競技の正式な名称は「Association Football(協会式フットボール)」である。
ところで、当時の学生の間では、長い単語の頭の3文字を取り、そこに「er」を付けて省略する言い方がはやっていた。たとえば「breakfast(朝食)」なら「brekker」という具合である。まあ、若者たちは、洋の東西を問わず、言葉を簡略化し、自分たち同士だけで通じる「符丁」のようなものにするのが好きなのである。このときの流行は、パブリックスクールのひとつでありラグビー・フットボールの発祥の地であるラグビー校で始まり、後にオックスフォード大学で波及したという。
しかし「association」を省略しようとして、学生たちははたと困った。最初の3文字を取ったら「お尻」という意味になり、まるで「ケツ野郎」のようになってしまい、ジェントルマンとしてはあまりにもはしたない。2番目の文字からにしようとしても、2番目と3番目の文字が重なっていて不自然だ。そこで3番目から3文字「soc」をとり、「soccer」という言葉をひねり出したという。この言葉が英国の文書で最初に表れるのは1889年のことで、そのときには「socca」というスペルだったが、2年後の1891年10月に初めて「soccer」の言葉が活字になったという。