■カットインシュートでスタジアムを支配する
自らのゴールで愛媛FCを沈めた10節の翌々説の12節大宮アルディージャ戦でも、本間至恩は「個」の力を見せつけた。
1対2とリードされて迎えた74分、左サイドへ流れる。高木善朗からヒールパスが通る。
相手チームの選手はもちろん観衆も、彼がカットインすると想像したはずである。
本間は迷わず内側へ持ち出す。彼がボールに触れるたびに、「来るぞ、来るぞ」という観衆の心の声が聞こえてくるようだ。
局面は1対1から1対2となる。本間の視線の先には、2人どころか4人の相手が見えていたはずだ。
それでも、ためらいはない。観衆の声にならない思いが、スタジアムに駆け巡る。「来るぞ、来るぞ、来るぞ」と、テンションが高まっていく。
本間は迷いなく右足を振り抜いた。高速のライナー弾が、ゴール前の密集をすり抜けて右スミへ突き刺さった。
コロナ禍のスタジアムでは、声を出すことができない。それでも、「来たぞ!」という熱がスタンドを駆け巡った。ホームの大宮のファン・サポーターにとっては「来たか……」という絶望だっただろうが。いずれにしても、本間至恩という選手のクオリティが、スタジアムを支配したのだった。
昨シーズンあげた7ゴールのなかに、左サイドからカットインして決めたものはひとつもなかった。それが今シーズンは、すでに愛媛戦、大宮戦で得点に結びつけている。対戦相手が警戒してくるなかで、決め切っているのだ。個の得点パターンは、そろそろ“本間至恩ゾーン”と言っていいだろう。
大宮戦に続いて行なわれた松本山雅FC戦では、明確なダブルチームで対応された。アルベルト監督の指示で前半途中から“偽の9番”の役割を担い、左サイドへ戻った後半は相手のマークを剥がして好機を作り出した。
プレースタイルは昨シーズンと同じである。違いがあるとすれば、信念の剛さだろう。プレーをやり切り、ゴールを取り切り、試合に勝ち切り、J1昇格をつかむ、との揺るぎない思いが、20歳のたたずまいに凄みを持たせているのだ。
Jリーグが選定する月間MVPや月間ベストゴールなどの個人表彰は受けていない。それでも、もうすぐ3分の1が終了する今シーズンのJ2序盤戦で、本間こそはもっとも輝いている選手と言っていい。