フットボールの罪と罰(2)オフサイド自動判定システムの限界の画像
川崎フロンターレ・三笘薫 撮影:中地拓也

※第1回はこちらから

21世紀になって20年がたち、VARが導入されているのに、相も変わらずオフサイドとハンドリングの判定が議論を巻き起こす。プレーヤーやサポーターだけでなく、レフェリーたちも大きなストレスを強いられている。いったい何が問題なのか。解決するためにはどういう手段が考えられるのだろう。

■オフサイド自動判定システム導入か

 先日は、「FIFAの『グローバル・フットボール・ディベロップメント』部門の責任者であるアーセン・ベンゲル氏が2022年カタール・ワールドカップでオフサイドを自動判定するシステムの導入を検討していることを明かした」というニュースがあった。

 僕は、ベンゲル氏がそのような役職に就いていることもこのニュースに接するまで寡聞にして知らなかったのだが、先進性に富む(?)FIFAはまたしても新しいこと(珍奇なこと)を計画しているらしい。現在のVARの運用でも、各国でこれほどトラブルが続出しているのに、だ。

 さて、ベンゲル氏が語ったように、その選手がオフサイドの位置にいるかどうかはGPSなどによる正確な位置情報を利用すれば自動判定が可能だろう。「ボールがプレーされた瞬間」という点に関しても、ボールにセンサーを取り付けておけば非常に正確に判定できる。

 いずれにしても、オフサイドの判定についてはピッチ上にいる副審が肉眼で見るよりVARが映像を再生して確認した方が間違いが少ないことは明らかだし、そこに位置情報を自動的に処理する技術を加えればさらに間違いは減るはずだ(どんなテクニックを使っても間違いは「ゼロ」にはならない。間違いが「減る」ことが重要なのだ)。

 ただし、一部の報道にあったようにピッチ上の副審が不要になるわけではない。ただ、人間(ピッチ上の副審およびVAR)は「選手がオフサイド・ポジションだったかどうか」ではなく、「オフサイドの位置にいた当該の選手がプレーに関与したか否か」の判断に集中すればいいのだ。

 これは、サッカーの話だけでなく、あらゆる社会的事象に当てはまることだ。つまり、機械(人工知能)に委ねられるところは委ねてしまえばいいのである。人間は、人間でしか判断できないことに集中すればいい。従って、サッカーの審判に関しても自動判定装置の導入は、可能なものは積極的に進めるべきだろう。

 ただし、オフサイドの問題は先ほどのプレミアリーグのケースのように「ライン」の引き方が問題になるかもしれない。最近よくあるような「腕が出ていた」とか「つま先が出ていた」といった判定をするには体のあらゆる部位にセンサーを取り付けておく必要があり、情報処理はかなり複雑になってしまう。

 それなら、たとえばオフサイド判定の基準を体幹の中央の位置とか頭部にすれば、必要なセンサーの数は少なくなり、情報処理も容易になるだろう。テクノロジーを使った判定を活用するためには、ルール自体もテクノロジーが扱いやすいように変更することも必要なのかもしれない。

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