■包囲網が絞られるほど、輝きは増していった
そして田中は最高のパフォーマンスで見事にそれを表現した。この試合では、日本チーム全体がすばらしい出来だった。なかでも田中とボランチを組んだ板倉が、相手と戦うという面で最高のプレーを見せた。どう猛な猟犬のように相手に挑みかかる板倉がいたから、その後ろのスペースで田中は「オーケストラ」のタクトを振って見せることができたのだ。
だがそうした事実は田中の評価を下げるものではない。チームメートが躍動し、板倉が奮闘してくれたからといって、田中のプレーが楽になったわけではなかったからだ。アルゼンチンは田中をマークし、抑えにかかった。だがアルゼンチンがその包囲網を絞れば絞るほど、田中は輝きを増した。後半、相手が押し込んでくると、田中は見事なステップワークで相手をかわし、前半のようなショートパスでのゲームメークから両サイドの裏を狙うロングパスに切り替えた。それによって相手の守備を広げ、日本ボールへの圧力を減らそうとしたのだ。
試合の流れを感じ取り、それに主体的なアイデアでプレーを変え、流れを引き戻そうとする成熟した判断力が備わってきたことも、この日の田中の衝撃のひとつだった。昨年までは、若駒のような凜々しさが際だっていた。失敗しても懸命に取り戻そうとするプレーがほほ笑ましかった。しかしことしの田中は、フロンターレでもU-24日本代表でも、チームの中心であり、状況に応じてプレーを変えていく成熟した「ゲームメーカー」となった。