来る2月下旬に開幕する2021年のJリーグでは、J1の全試合でVARを実施することになっている。ところが、すでに導入ずみの海外リーグでは、納得のいかない判定が増えている。さらに、VARの介入が、サッカーそのものをつまらなくしてしまうことまである。われわれは、昨年のACLでヴィッセル神戸が不可思議なVAR判定に泣かされたことも知っている。はたして、このまま導入されていいのだろうか——。
■VARへの歴史の大きな曲がり角
「VAR時代」への扉を開くサッカー史で最も重要な出来事は、2006年のワールドカップ・ドイツ大会の決勝戦で起こった。そう、ジネディーヌ・ジダン(フランス)の頭突き事件である。延長戦の後半、フランスの攻撃をイタリアがはね返し、ボールはフランス陣にはいった。主審も、副審も、8万人の観衆も、誰もがイタリアの攻撃に目を奪われたとき、イタリア陣にいたイタリアDFマルコ・マテラッツィが倒れた。
しばらくして試合を止めたオラシオ・エリゾンド主審(アルゼンチン)が近くにいた副審に聞き、第4審判にも聞くが、誰もその瞬間を見ていなかった。しかし第4審判が自分の席に戻ってから、エリゾンド主審はジダンに近づき、レッドカードを出した。実はテレビ放送のリプレーでその瞬間が放送されており、この大会では、第4審判の横に座るFIFA役員の前にテレビモニターがあったのだ。リプレーを見た役員から第4審判へ、そして無線でエリゾンド主審に事実が伝えられたのは明らかだった。
もちろん、当時はVARはおろか、ゴール判定をするゴールラインテクノロジー(GLT)もなかった。テレビ映像を使っての判定はルールで厳しく禁じられていた。FIFAの審判委員長も当時のジョゼフ・ブラッター会長も、けっして「リプレーを使った」とは言わなかった。だがそれ以外にこの判定を説明できるものはなかった。
しかしこの「ルール違反行為」に基づく判定が「正義」を守ったことは確かだ。マテラッツィがジダンに対して暴言を放ったという話はあったが、サッカーのピッチ上で相手を頭突きするような行為などけっしてあってはならない。VARがあれば、こうした行為は絶対に見のがされないはずだ。さらに「無観客」であれば、「暴言」もチェックすることができるかもしれない……。