■VARの最大の長所は抑止効果
私はVARを全否定するものではない。VARの最も重要な側面は、レフェリーが見ることのできなかった重大な違反、退場や、場合によっては長期間の出場停止になるような悪質な行為などをチェックできるところにあり、そして何よりも、そうしたものを抑止する効果にあると思う。VAR導入前に使われていた「追加副審(AAR=ゴールラインの外に位置し、主にペナルティーエリア内のプレーを見守る副審)」を使った試合では、主審や副審から見えない角度で相手を押さえる、引っぱるなどの行為が激減した。ピッチ全体をカバーするVARの「抑止力」は、非常に大きなものがある。
2019年にブラジルで行われたU−17ワールドカップで、VARが見事な働きをしたことがあった。ブラジル選手がパスする瞬間に、ニュージーランドの選手がタックル、ブラジルの選手は、タックルをかわすようにジャンプした。パスはつながり、プレーは続けられたのだが、プレーが切れたところでVARから主審に「試合再開を少し待ってほしい」という要請が伝えられた。実は、タックルをよけようとジャンプしたブラジル選手は、その足を下ろしながら、倒れたままのニュージーランド選手の太ももを思い切り踏みつけていたのだ。「スタンピング」と呼ばれる非常に悪質な反則である。
VARのアドバイスを受けた主審は映像を確認し、ブラジル選手にレッドカードを示した。こうした例が積み重なっていけば、レフェリーが見えないところで相手に大けがを負わせかねない悪質な反則は減っていくはずだ。