来る2月下旬に開幕する2021年のJリーグでは、J1の全試合でVARを実施することになっている。ところが、すでに導入ずみの海外リーグでは、納得のいかない判定が増えている。さらに、VARの介入が、サッカーそのものをつまらなくしてしまうことまである。われわれは、昨年のACLでヴィッセル神戸が不可思議なVAR判定に泣かされたことも知っている。はたして、このまま導入されていいのだろうか——。
■割り切れないヴィッセル神戸の敗戦
昨年12月のACL準決勝、ヴィッセル神戸と韓国の蔚山現代の試合で、神戸の2点目が決まったと思った瞬間、VARがはいって得点を取り消されたシーンを記憶している人は多いに違いない。神戸が相手陣でボールを奪ってショートカウンターをかけ、MF山口蛍のシュートのリバウンドを交代出場のFW佐々木大樹が決めたきれいなゴールだったのだが、これにVARが介入した。神戸がボールを奪還したときのMF安井拓也のプレーが反則ではないかというのだ。
試合中、VARは常に「攻撃の起点」をチェックし、そのたびに映像にいわば「チャプター付け」をする。そして得点、PK、決定的得点機会の阻止の反則が起こったときには、すばやくその起点からチェックする。たとえばボールを奪い返したプレーが反則だったら、得点などの状況にはならないはずだからだ。
神戸の得点を、安井がボールを奪ったところからチェックしたのは、VARの手順として必要なことだった。しかし誰が見ても決定的な反則があったとは思えない場面(ボールを奪われた蔚山現代の選手も、反則などアピールし、すぐに安井を追っていた)で、VARは安井の足がボールに触れる前にわずかに相手選手の足に当たっているのを発見した。そして主審に映像を見ることを求めた。
一般に、スローで繰り返しプレーを見ると、多くのプレーが反則に思えてしまう。このとき、VARはスロー映像だけを主審に見せ、主審も通常速度での映像を要求しなかった。その結果、安井のプレーが反則とされ、得点が取り消された。
VARはすべての事象をチェックするが、レフェリーが重大なミスをしたとき、あるいは重要な事象を見のがしたというとき以外は介入しないことになっている。しかしこのときは、その抑制が効かなかったようだ。ここでは、「反則を探しにいく」というVARが陥りがちな過ちが、スロー再生だけを見せたこととともに、二重の過ちとして起きている。
この試合は、その後、蔚山現代が決めたゴールがオフサイドと判定されたものがVARによってゴールとされ、延長戦でPKを与えてしまった神戸は1−2で逆転負けした。そして蔚山現代は、決勝戦でもVAR介入による2本のPKでイランのペルセポリスに2−1で逆転勝ちして優勝。どこか割り切れない思いが残る大会になってしまった。