サッカーに携わる仕事をしたい――。そう願ってスペインへと渡った男には、現地で肌を通じて学んだからこそ見えてきた、ピッチ内外でのスペインサッカーの真の姿がある。世界的名門FCバルセロナの高名なるアカデミー「ラ・マシア」の内部を垣間見、久保建英とも知己を得て、現在では通訳も務めた元スペイン代表FWダビド・ビジャとビジネスパートナーとなり世界を視野にフィールドを広げる神蔵勇太氏に、スペインサッカーの真実、コラソン(魂、真髄)を聞いた。
■ビジャを「刺激」したアメリカ
2018年、世界がどよめいた。バルセロナとスペイン代表で数多くの栄光を手にしてきた名手が、アジアでのプレーを選ぶというのだ。本当に、アンドレス・イニエスタは日本へとやって来た。
前年のルーカス・ポドルスキに続き、神戸は大型補強を続行。イニエスタに続いても、新たな元スペイン代表がやってきた。やはりバルセロナでプレーしていたダビド・ビジャだ。この大きなうねりが、神蔵氏の運命も変えた。
バルセロナでスペインサッカーに触れた神蔵氏は、次のステップを探していた。その際に飛び込んできたヴィッセル神戸のスペイン語通訳募集で採用されると、翌年にはやってきたビジャも担当した。
ビジャの毎日に寄り添うことで、神蔵氏はその人柄やいろいろな考え方に触れたという。周囲から何度も繰り返された質問がある。そもそもビジャは、どうして日本を選んだのか。
「ヴィッセルが考えるクラブ戦略に大変興味を持ったのと、イニエスタとプレーできることが理由だと話していました。キャリアの終盤で彼と一緒にやれるというのは、ビジャにとってもすごくうれしいことだったそうです。
外国でプレーすること自体にも意味があったようです。神戸に来る前にアメリカのニューヨーク・シティでプレーしていましたが、あそこでサッカー選手として生活することはすごく刺激的で、家族にとっても素晴らしい時間だったと振り返っていました。だから、同じように環境を変えてサッカーをすることにすごく前向きだったと、よく話していました。
スペインではどこに行っても有名なのに、ニューヨークに行ったら、長女が学校でお父さんはビジャだと言っても、誰も知らなかったらしいです(笑)。『サッカー選手?』という感じで。スペインと全然違う世界が存在して、職業として成立はしても、選手の立場が国によってまったく違うという発見があったんでしょうね」