■国境の向こうに天国が
準々決勝以降は、スイス・バーゼルのザンクトヤコブ・シュタディオンとオーストリア・ウィーンのエルンスト・ハッペル・シュタディオンが会場になっていたので、全試合を見るには両国を往復しなければなりませんでした。そこで、少しでも物価の安いオーストリアを基地にして、バーゼルで試合のある日に飛行機でバーゼルまで行き、帰りは夜行列車を乗り継いでウィーンに戻るという生活にしようと思いました(列車は報道関係者はタダなので1泊分浮きますが、山道ですからかなり時間がかかります)。
しかし、スイスほどではないにしても、1ユーロが170円ではウィーンで生活するのもやはり財布には厳しいのです。そこで、地図を見ていて思いついたのです。
ウィーンに泊まらずに、ブラチスラバまで行って泊まればいいんだ、と!
ブラチスラバはスロバキア共和国の首都です。しかし、ウィーンからは直線距離で50キロもありません。調べてみると遅い時間でも電車が往復していますから試合が終わってからでもブラチスラバまで帰れます。
電車も国境までは無料。スロバキア領内の電車賃は本来は払わなければいけないのですが、たいてい車掌が目をつぶってくれました。
当時のスロバキアの通貨はコルナでした(2009年1月からユーロに切り替えられました)。1コルナは6円ほどです。
いやあ、天国でした。テーブルに座ってシュニッツェルとかグーラーシュといった現地の料理をたらふく食べて大きなジョッキでビールを飲んでも、100コルナとか200コルナ程度です(差はビールの量によるもの)。スイスで立ち食いでソーセージを1本かじるのと同じような値段ですよ!
そして、スロバキアはビールも美味しい国です。ビールの人口1人当たりの消費量は20年以上チェコ共和国が1位を独占しています。2位はオーストリアで、2018年の統計ではスロバキアは8位となっています。
試合のない日の昼下がり、夏の太陽の下ブラチスラバの広場のオープンカフェでのんびりとビールを飲んでいると、買い物帰りの主婦たちが次々と立ち寄って大きなジョッキでビールを飲み干していきます。
ブラチスラバ……。ビール飲みにとっては最高の思い出の地となりました。