一方でパリ・サンジェルマンは2011年にカタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI)に買収されている。カタールの国家企業の子会社であるQSIは欧州進出という野心を抱いていた。
2022年のW杯招致を含め、カタールはフットボールを通じて国のブランドイメージを高めようとしていた。そこで選ばれたのがネイマールだった。仮に、2022年W杯でカタールが早期敗退に終わったとしても、ブラジルが優勝して10番をネイマールが背負っていればパリ・サンジェルマンと投資会社のQSIの価値は上がるという不思議な逆転現象が起こる。そういった狙いもあり、ネイマールが国家クラブと国家プロジェクトの一旦を担うことになった。
ネイマールがパリ・サンジェルマンの真意を知っているかは定かではない。というより、やはりメッシの2番手から脱け出して自分が中心のチームでビッグタイトルを獲得したかったのだろう。
そして、パリ・サンジェルマンはそのための投資を惜しまなかった。この10シーズンで、43選手の獲得におよそ12億6810万ユーロ(約1586億円)を投じている。またトーマス・トゥヘル監督はネイマール中心のチームを作り上げた。キリアン・ムバッペとネイマールを共存させながら、ネイマールをゼロトップに据える「ネイマール・システム」でチャンピオンズリーグの決勝まで上り詰めた。
サンバを踊るように軽快なリズムでボールを運ぶ。神妙なタッチで相手を抜き去り、鮮やかなコンビネーションでゴール前を崩していく。今季のネイマールを見て、バルセロナで輝いていた頃の彼を思い起こした者は少なくないだろう。加えて、エゴイスティックなプレーに走るのではなく、規律を重んじるトゥヘル監督の下で献身的に守備を行っていた。
それでも、決勝ではバイエルン・ミュンヘンに屈した。あと一歩、届かなかった。だが、敗れた後のネイマールの顔はどこか清々しかった。パリで充実感を漂わせ始めたネイマールの更なる進化が、2020ー21シーズンには見られるかも知れない。