■一夜150円の安宿に泊まる
危ねっ! 催涙弾の水平撃ちというのはかなり危険なもので、当たり所が悪ければ死ぬこともあります。近くの民家に1時間くらい隠れて、周囲が静かになってからホテルに戻りました。
さて、交通機関も全部止まってしまったので国外に出られません。「困ったな~」と思っていると、モラーレスという会社のバスがボリビアのラパスまで行くと聞いたので、それに飛び乗りました。「スト破り」のバスです。ラパスまで約24時間の予定。知り合いの日系人が住んでいるので、ラパスまで行けば安心です。
バスは5月21日の14時に出発しました。床に穴が開いたオンボロ・バスでした。
ゼネスト中ですから道路にはバリケードが築いてあったり、落とし穴が掘ってあったりするので予定通りには進めません。落とし穴にはまってしまうと、乗客も総出でスコップを持って穴を埋めなければいけません。
ちょうど満月の夜でした。3800メートルの高地で、周囲には人工物が何もない荒涼とした高原です。空いっぱいに満天の星が瞬き、まるで太陽のように明るく輝く月の光で遠くの山がほの白く浮かび上がっています……。夢のような光景でした。
翌朝、プノという大きな町を過ぎると左手にティティカカ湖が見えてきました。標高3800メートルにあり、琵琶湖の12倍という大きな湖です。行けども行けども湖でした。
バスは大幅に遅れ、出発から26時間かけてようやくボリビア国境にあるユングヨという小さな町に着きました。もう、ここから先へは行かないそうです。
小さな町で、1軒だけ「ソル(太陽)」という旅館がありました。ティティカカ湖に浮かぶ「太陽の島」という観光地が近いので、それにちなんだ命名でしょう。1泊100ソーレス=約150円です。小さな部屋の天井からは裸電球が1個ぶら下がっていましたが、夜10時にはバチッと電気が止まって真っ暗になりました。
こうして、地球の果ての安宿で僕は不安な一夜を過ごすことになったのでした。なにしろ、当時の僕はスペイン語がほとんど話せませなかったんです。そして、こんな田舎には英語を話す人は一人もいません。翌日の国境越えも心配です……。
(この項つづく)