■DFの弱点を利用してのドリブル突破

 久保のドリブルの上手さについては、彼がFC東京でプレーしていた時から、われわれは何度も見て知っている。日本代表デビューとなった2019年6月のエルサルバドル戦でも、交代出場して早々の時間帯に相手DF2人を引き連れてドリブルし、最後は相手2人の間を割って切れ込んだ場面があった。

 いや、久保がバルセロナを離れてFC東京の下部組織に在籍するようになった頃から、久保のドリブルに驚かされることが何度もあった。

 たとえば2016年の日本クラブユース選手権(U-18)もそうだ。当時15歳になったばかりの久保がFC東京U-18に飛び級で加わり、準決勝でFKを決めて決勝進出の立役者になった大会だ。この時の久保のドリブルを見ていると、久保が相手DFの右足側にボールを持ち出して盛んにドリブルを仕掛ける場面があった。久保がそうしたのは、それが相手にとって最も嫌なプレーだったからだ。

 DFにも利き足というものがある。その時久保が対峙していたDFは右足を立ち足にして左足でボールを奪うのを得意としていたのだ。そこで、久保が右足側に仕掛けてくると窮屈な体勢になってボールに対して足が出るのが遅れてしまうのだ。

 久保は、そうした相手のプレーの特性を素早く読み取って、相手にとって一番嫌な角度でドリブルを仕掛けていたわけだ。

 また、代表デビューのエルサルバドル戦でのドリブルでも守備側は2人いたのだが、2人のDFが横に並んだまま並走する形に追いやってからドリブルのスピードを落とし、結果として相手の足が止まってDFが棒立ちになった瞬間に2人の間を突破したのだ。

 自分の間合いで、自分の得意な形でドリブルするのではなく、久保の場合は必ず相手のことを考えて、相手にとって一番嫌な形を仕掛けるわけだ。

 日本のサッカー界では、「自分たちのプレー」を貫くことが称賛される。90分にわたって自分たちの思った通りのプレーをして、思った通りに得点できれば、もちろんこれほど素晴らしいことはない。だが、サッカーというのは必ず相手があるものなのだ。90分間思った通りにプレーができるのは大きな実力差がある場合だけだ(そんな試合ばかりでは、やっていても、見ていても面白くはなかろう)。

 サッカーというのは相手との駆け引きをして、相手の裏をかき合って楽しむゲームなのだ。

 それは、個人対個人の勝負であっても同じことだ。自分の得意のプレーだけで勝利できるのなら、それはそれで素晴らしいことだが、相手の力が自分と同等であったり、相手の方が上手であったりすれば、当然相手との駆け引きによって相手の良さを出させないようにして、相手の弱点を利用してプレーするわけだ。

 それを、久保建英というプレーヤーは幼い時代から高いレベルでできていたわけである。

 スペイン1部リーグで久保が対峙するDFは、ほとんどの場合、久保自身よりもフィジカルが強かったり、スピードがあったりするはずだ。少なくともサイズで久保を上回っているのは間違いない。そういう屈強なDFが複数でマークしてくる中で、ボールを失わずに敵陣深く持ち込んで味方に正確なパスを送ることができるのも、久保が相手DFの特性を考えながら、駆け引きをしながらプレーできているからなのだ。

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