取材席の数は、1試合あたりわずか25席。そこに座る幸運にあずかったベテラン・サッカージャーナリスト2人が、TV観戦をした進行役と、マスクごしに口角泡を飛ばして語り合った。大住良之さんは、埼玉スタジアム2002から、後藤健生さんはBMWスタジアム平塚から、試合後に編集部へと駆けつけた。深夜0時にスタートした熱い激論は、予定の時間をはるかに過ぎても終わろうとする気配すらなかった。
進行:半田雄一/中田功(本誌編集長)
■浦和レッズのトーマス・デンという逸材
半田 無観客の話をもうちょっとしていいですか。
後藤 やっぱり、テレビで見ていて無観客はちょっと気になるけど、生で見てると試合に集中するから、ほとんど気にならない。大体、ボクらJSL時代に無観客みたいなのを2、30年近く観てたんだからさ。別に今更、驚かないしね。ボクは今でもJ3も見に行くし、関東リーグも見に行っちゃうんだから。無観客だってへっちゃら。
半田 関東リーグは基本、無観客みたいなもの。
後藤 関東大学リーグとかも平気ですから。
大住 まあ本当に。今日も埼スタで無観客というと、いつもの6万人がいない。だけど、2014年に埼スタで無観客試合があったんだけど、あの時とは全然ちがう感じだった。やっぱりあの時はね、処分されてるって感じで、無観客っていうのは重くのしかかってたよね。だけど、今日は全然意味が違うから。こういう状況でも試合できる喜びとか、それをサポーターに伝えたいって気持ちは、どこのチームにもあるよね。
半田 テレビの前のサポーターたちに伝えたいっていうのがプレーに出てましたか?
大住 それを表現するのは、なかなか難しいけど。でも、浦和の試合は本当に最初からすごく激しくて。ファールも……主審が西村雄一さんだったんだけど、もう全然(ファールを)取らない。「えーっ」とか言いながらやっていたけど、もうガンガン当たってたよね。
半田 じゃあ、とても面白い試合だったんですね。
大住 浦和ってもう、ここ数年、負のメンタリティというか。うまくいかないとか、勝てないとか、なかなか積極的な感じがしなかったんだけど。久しぶりに積極的な……なんていうんだろう、それが効果的かどうかは別なんだけど、ものすごく積極的に、前向きにみんながプレーしてた。その負のメンタリティからようやく、この4か月で抜け出したかなって。
後藤 2月の第一節の平塚での湘南戦、あれは全然だったけど。もうすっかりその辺が……。
大住 そうそう。あの時は1点リードして、それを守ろうとして。本当に負のメンタリティ。だけど、それが払しょくできたような感じがした。だから、今日の試合は面白くなったんだよ。点は入らないし、決めなきゃいけないシュートを決めきれない時があったんだけど。だけど、浦和がそうやったからマリノスも力をどんどん、後半になってスピードが上がってきたし。だから、面白かった。
半田 マリノスの出来はどうでしたか?
大住 マリノスは前半は、受けちゃったのかな、浦和の当たりを。だから、飲水タイムまで何にも(できなかった)。ボール持っている時間はどっこいなんだけど、破ってシュートを撃つ時間が全然なかったね。浦和がどんどんボールを取りに行って、取れない時はすぐ引いて組織つくっちゃって。今年オーストラリアから来た、(トーマス)デンていう選手がいるでしょ。若いんだけど、オーストラリアのU-23のキャプテンもやっていて。それがすごく、スピードもあるし、パスもちゃんと出せるし、カバーもものすごく良くて、それで結構救われていたよね。今までのセンターバックの選手たちだったら、もしかしたら何回かやられていたかもしれない。3点くらい取られていたかもしれない。
半田 トーマス・デン?
大住 そう。1月の終わりに契約して、合流もそんなに早くなかったから、キャンプに間に合ってなかった。開幕戦のころは全然出てなかったんだよね。