サッカー講釈師の「日本ラグビー強化策」――次回W杯の成功は期待しない――(後編)の画像
リーチマイケル 写真:AFP/アフロ

またまた登場のサッカー講釈師。ラグビー日本代表を彼は「ジャパン」と呼ぶ。なぜ「日本代表」、「ニッポン」ではないのか。まるでラグビー・ファンのようだ。ところが、ラグビー強化策を語りだすと、それは日本サッカー史における経験と叡智を踏まえたものとなり、サッカー狂丸出しだ。

(※前編はこちら)

■国内リーグをどうするのか

 スーパーラグビーも継続困難、代表の試合も思うように進まない。そうなると最終的な結論は、選手の能力強化は所属クラブで行うという、サッカー狂からすればしごく当然の道筋となる。

 リーチマイケル、田中史朗、堀江翔太らはスーパーラグビーの他国チームでプレー経験がある。松島幸太郎は近々フランスのクラブでプレーするという。これらにより、日本のトップ選手が高給とより高いレベルを求め、海外の強国でのプレーを目指すのは当然のことだろう。そして、並行して国内の大会レベルを上げ、多くの優秀な選手がよりよい報酬と名誉を得ることも必須となっていく。

 そこは日本ラグビー協会もよく考えており、トップリーグを発展的解消して、新たな「新リーグ」を作るべく、活動を開始している。その検討の中軸には、ラグビー界の切り札ともいえる清宮克幸氏が就任している。清宮氏周辺は、現在のトップリーグを発展的に解消し、地域密着したプロフェッショナル化を考えているとのことだ。

 Jリーグが日本スポーツ界で先鞭を告げた地域密着はリーグの活性化の手段に過ぎないのだが、これは手段にとどまらず本質なのだ。地域密着によりそのチームは存在意義が明確になる。そのため、観客、出資者、スポンサーが、チームの現場を経済的に支えることで当事者意識が生まれる。その結果、関係者すべてが参画するクラブとして飛び切りの一体感を持つことができるようになる。それを基盤として、各クラブ間の健全な競争が生まれ、自然と競技力向上につながる。Jリーグのその発想は日本全土を覆い、さらにバスケットにも展開された。野球も各地の大都市に展開することで観客動員を伸ばしたのも知られたことだ。

 私は仙台で生まれ育ち、85年に大学卒業するまで在住した。若い方々には信じられないだろうが。私が仙台にいた折に、我が故郷にはいわゆるスポーツの娯楽は存在しなかった。ベガルタ仙台の登場により、私の故郷は大きく変貌を遂げることができた。日本最高のスタジアムであるユアテックに足を運ぶ人はもちろん、テレビや新聞やネットでベガルタに触れる人々にも、喜怒哀楽を共有できる象徴が生まれたのだ。それにバスケット、野球が続き、仙台という都市は昔とはまったく異なる輝きを持つこととなった。私にとっても、ベガルタ仙台というサッカークラブの存在は、不可欠のものだ。毎週末、ピッチ上で七転八倒しながら奮戦する我がクラブ、負ければ嘆き、分ければ息をつぎ、勝てば歓喜する。ベガルタを通し多くの友人を新たに得ることができ、自分を育んでくれた故郷とのつながりを確信できる。ベガルタ仙台は、人生の糧そのものなのだ。

 これまた私事ながら、私の従弟は首都圏の中堅都市で病院を経営している。その都市の小料理屋で、従弟と一杯やっていた時のことだ。その店に、長身の精悍な青年が入店してきた。従弟に気がつくと丁寧な挨拶をしてくる。聞くとその青年はその都市のBリーグクラブの社長、ここでの出会いは偶然だが、以前から従弟にスポンサーとなることを提案していたとのこと。お節介なサッカー講釈師は従弟に説教を始めた。「地域密着を図ろうとしているクラブへの参画は、地元への直接貢献、従業員の方々への特別な思いを含めた娯楽提供、健全な広報活動、いずれをとっても経営にプラスにはたらくはず」などと。従弟もかなり高いレベルでの競技スポーツを経験していたこともあり、後日スポンサーとなる決断をしてくれた。結果的には、それは大成功だった模様、病院の行事などに選手やチアガールが参画してくれるなど、企業経営にも間接的だが相当なメリットがあったとのことだ。

 かように地域に根ざしたスポーツクラブは、私たちの人生を実り豊かなものにしてくれる存在なのだ。

 ただし、ラグビー界各チームの、地域密着への道は容易ではないようだ。過去からのいきさつでしかたがないことだが、トップリーグの多くのチームは首都圏に偏在していることが障害になっている模様だ。

 最近の報道によると、「ホーム」ではなく「ホスト」という単語を採用し、段階的に21年度から23年度に向けてスタジアムの確保、運営事業化(要は独立した企業体として、自前でチケットを販売し、試合を興行として成立させる)などを段階的に進めるよう義務付けていこうとしている模様だ。現実的な手段なのだろう。

 素人の戯言なのだが。たとえば、岩手県釜石市や埼玉県北部(熊谷市周辺)など、ラグビーが元々盛んな地域。あるいはトップリーグ所属企業の地方工場など。これらをうまく組み合わせ、国内のあちらこちらでラグビーのトップリーグを楽しめる環境を作ることができないだろうか。

 そうやって、日本中でトップレベルのラグビーを楽しむ環境ができれば。結果的に私たちは今より強力なジャパンを所有できる時代が来るのではなかろうか。

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