下位クラブで深刻な依存度
では、プレミアリーグに昇格すれば、ひとまずは安泰なのか。そうとばかりも言ってはいられない。
下図を見ていただきたい。これは、プレミアリーグのクラブの放映権料への依存度を示している。
この図は、クラブの総収入におけるリーグから分配される放映権料が占める割合を示している。リーグからの分配金にはスポンサー料などの他の商業的(コマーシャル)収入も含まれるが、その95~97%は放映権料である。つまりはリーグ分配金≒放映権料なのだが、同じ「放映権料≒全収入」という構図が下位クラブには当てはまる。
ビッグ6と呼ばれるマンチェスター・シティ、リバプール、チェルシー、トッテナム、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドは、コマーシャル収入、マッチデー(試合入場料等)収入、マーチャンダイジング(物品販売等)収入も多い。それでも、放映権料はクラブ収入の約30%を占めている。
さらに上位4チームはチャンピオンズリーグ、5・6位はヨーロッパリーグに出場し、各大会の放映権料も受け取る。昨シーズン王者のマンチェスター・シティの全放映権料は、上図の金額にチャンピオンズリーグにおけるUEFAからのものも上乗せすると、2億1150万ポンド(約296億円。1ポンド=140円で計算)にまで跳ね上がり、収入全体の40%にまで到達する。
一方で下位4チームを見ると、リーグからの放映権料は、全収入の70~78%を占めることになる。まさに、「放映権料依存」と言っていい状況だ。
プレミアリーグは圧倒的な人気と知名度、そして資金力で、世界トップの選手たちを引き寄せる魅力あふれるリーグである。だが、その力の源である放映権料への依存度が高過ぎる。
欧州5大リーグの中でも、下位クラブにも潤沢な放映権料がもたらされるプレミアリーグは、非常に競争力があると言える。だが、1992年の開幕から30年近く経とうとしているが、リーグ優勝を果たしたのは6クラブだけである。
トップクラブはさらに資金力を増し、他クラブとの差を広げていく。2015-16シーズンに日本代表FW岡崎慎司所属のレスター・シティが優勝した際には、「ミラクル・レスター」として称えられたが、その「奇跡」という表現こそが格差の大きさを物語っている。
今、コロナ感染によるスポーツイベントの中止・延期が世界中で起きている。プレミアリーグも例に漏れない。
リーグは6月中旬の再開を目指して動いているが、その実現はまだ不透明だ。このまま未消化試合を残したまま今季終了となった場合、放送権料が全額支払われることはないだろう。そうなれば当然、クラブへの分配も減り、依存度に比例してダメージは増すことになる。
自分が経営者であったなら、果たしてどう舵を切るか…。イングランドのサッカークラブ経営は、極めて難しいビジネスなのである。