「凪」の市場で目立つユナイテッドの噂

 このような凪のイングランドで、“元気”なクラブがある。昨季は6位に沈んだマンチェスター・ユナイテッドだ。真偽のほどはともかく、補強に関する噂の数ではプレミアリーグで群を抜いている。

 副会長のエド・ウッドワードは、今季の終わりがいつになるかも分からないためオープンの時期さえも不透明な移籍市場について、その後の青写真やフットボール産業全体への影響も含めて注意深く見極める重要性を強調する。しかし、一旦この状態を抜け出した暁には、「移籍市場で強い競争力を維持したいと思っている」と野心を隠さない。他クラブからは聞こえてこないコメントだ。

 今夏の目玉の一人が、ドルトムントでプレーする若干20歳のイングランド代表ジェイドン・サンチョだ。レアル・マドリーやバルセロナが狙うとの報道もあるが、マンチェスター・ユナイテッド入りが内定、あるいは確実というのが大多数のメディアの見解だ。それだけの「パワー」がユナイテッドにある、ということだろう。

 その他にも、ケインにも食指を動かしていると報じられたり、レアル・マドリー入りでクラブ間合意に達したと伝えられたアヤックスMFドニー・ファン・デ・ベークが加わるとのニュースが出るなど、間違いなく移籍市場の主役を張っている。たとえすべてが事実ではないとしても、火のないところに煙は立たないのだ。

 前述のデロイトの調査では、欧州クラブを収入別にいくつかの「ミニリーグ」に分けている。奇しくも欧州5大リーグと同じように5つのリーグに分類されているのだが、マンチェスター・シティとリヴァプールは、バイエルン・ミュンヘン、パリ・サンジェルマンとともに「2部リーグ」に位置付けられている。そのヒエラルキーでトップリーグに入っているのが、バルセロナ、レアル・マドリー、そして昨季収入が世界第3位のマンチェスター・ユナイテッドなのだ。

 コロナウィルスによるリーグ中断期間前には、全公式戦を通じて11試合無敗。CL出場圏内の4位にも勝ち点3差と肉薄している。混沌の世界の中で、ひそかに野心は燃え上がっているのかもしれない。

 サー・アレックス・ファーガソンの監督退任後、ユナイテッドはまったく浮上できずにきた。補強への投資は積極的ではあったが、額に見合う効果が出ていないことは、ここまでの成績が示している。だが新シーズンにおいては、放っておいても周囲が地盤沈下している可能性が高く、補強費の差は通常以上の意味を持つかもしれない。

 少なくとも今夏の移籍市場においては、イングランドの“けん引役”になる可能性は十分にある。赤い悪魔は、果たして復活するのか――?

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