“この状況においてこの角度は絶対にありえない”

 2015年の時点でこう語られていた岡田メソッドだが、それから約4年を経て熟成。書籍化の際にはさらなるブラッシュアップがあった。山下氏は語る。

「本ができる前に、岡田メソッドやプレーモデル、コーチング哲学についてまとめたパワーポイントの資料があり、これが書籍制作のベースとなりました。これらの資料を岡田さんと一緒に作成されたのが、FC今治のアカデミー・メソッドグループ長の橋川和晃さんです。

 橋川さんはアビスパ福岡のアカデミーダイレクターや中国浙江緑城のテクニカルアドバイザーを務められた方なのですが、2006年からはJFAの指導者ライセンス講習会にも関わっておられて、指導方法をわかりやすく言語化・図式化する特別な才能をお持ちでした。

 橋川さんの尽力もあり、『岡田メソッド』では150点以上に及ぶ図一つ一つもこだわっています。僕からすると、プレイヤーを表す白い人形が、こっち向いてようがミリ単位でちょっとこっちに向いてようがいいじゃないかと思ってしまう。

 でも“この状況においてこの角度は絶対にありえない”と、岡田さんと橋川さんは議論しているんです。読者はこの図にもとづいて指導するわけだから、この体はこの向き、と一個一個ほんとうにまったく妥協せずに、おふたりは議論していました。人形1つとってもそうですし、矢印1つもどこまで伸ばすか、というのも同じく真剣でしたね。

 編集過程で、図を2つにしたほうがいいね、とか、3つだったのを1つに集約したほうがいいとか、いつ終わるんだろう……と思ったこともありました(笑)。

 でも、やっぱりこの本にかける情熱はすさまじいと感じました」

人形1つ、矢印1つにもこだわりぬいた図

※第2回に続く

おかだ・たけし 大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学でサッカー部に所属。同大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。 引退後は、クラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、Jリーグでコンサドーレ札幌、横浜・F・マリノスの監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。
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