チッチ
チッチ 写真/渡辺航滋

(この記事は2017年6月13日に発行された『サッカー批評86』(双葉社)に掲載されたものです)

文・写真◎藤原清美 Kiyomi Fujiwara 
写真◎渡辺航滋 Koji Watanabe

※このインタビューは2012年9月27日、コパ・リベルタドーレスに優勝し、12月のクラブW杯出場前にサンパウロで行なったものです。

ブラジル史上最高の監督—。そんな風にも呼ばれるチッチ。55歳の指揮官は、どんな人物なのか。
チッチがコリンチャンスの監督を務めていた2012年に行ったインタビューをお届けする。
その言葉からは、チッチのサッカー哲学が見えてくる—

何歳になっても監督として勉強中

――2010年の終盤にチッチが再任してから、この2年間、コリンチャンスにはいろいろなことが起こりました。11年は、2月にリベルタドーレスカップでまさかの予選敗退。その直後に、1年間チームの主力を担ったロベルト・カルロスが、ロシアのアンジ・マハチカラへの移籍で去ったり、ロナウドが現役を引退したり。でも、チッチはチームを素早く再構築して、年末にはブラジル全国選手権優勝という結果を出しました。そして、12年の今年はリベルタドーレス優勝。そこまで素早く立て直し、これだけの成果を達成するには、どういう面、どういう点に、より大きな力を注いだんですか?

「どの時期が、とか、どういうことに力を注いだか、何が一番大事だったかと、点で話すのは、すごく難しいんだよ。実際、チームの再建は4度に渡った。何人かの選手たちが去ったり、復帰したり、引退したり、いろいろなことがあったからね。そういう面では、ロナウドとロベルト・カルロスの状況は、チームにとって、激震でもあり、チーム史に刻まれることだったしね。

 でも、コリンチャンスは私が仕事をするための、時間を与えてくれた。それが大きかったんだと思うよ。それで、チームに一つのプレースタイルや、サッカーのメンタリティを植え付けることができた。

 例えば、チームスポーツでは連帯感が必要だが、実際には、ピッチで連帯責任と個人主義をバランス良く維持することが大事なんだ。そして、そのメンタリティを植え付けるのは、すごく難しい。みんなに守備の責任があるが、状況が揃えば、もしくはチャンスがあれば、誰でも攻撃に出ても良いし、誰が個人技で目立ったっていい。だいたい、そういう基盤を作ったんだよ。

 さまざまな印象に残る瞬間があるが、時間のおかげだ。ご存じの通り、ブラジルサッカーでは、2、3試合の敗戦で監督の去就が決まることさえある。もし、首脳陣が私を信頼してくれなかったら、私の仕事は、そして、昨年のブラジル全国選手権と今年のリベルタドーレス杯という2つのタイトルは、非常に難しくなっていただろうね」

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