それでもネイマールの代役探しは続いた。今季開幕前、グリーズマンをアトレティコから獲得したが、今度はその最大の理解者を「切る」ことになる。
最大の理解者とは、エルネスト・バルベルデ前監督だ。ネイマールの移籍で、一番の犠牲者となり、かつそこからチームを再建した功労者が、標的となったのだ。確かに、就任当初から、バルベルデのフットボールはバルセロニスタの求めるような美しいものではなかったかもしれない。しかし、それでさえ、就任1年目のプレシーズンで戦術の核と考えていたネイマールの電撃退団があり、苦慮の末に伝統の4-3-3を捨てて4-4-2に舵を切ったことがきっかけだった。
ネイマール不在で迎えた2017-18シーズン、バルセロナ理事会の退陣を求める不信任動議に向けた動きがあった。そんな中、開幕から公式戦で9連勝して周囲の喧騒を鎮めたのがバルベルデだった。つまり、バルトメウ会長は、一度バルベルデに救われているのだ。そのバルベルデが、2019-20シーズン、突如として責任を負わされた。スペイン・スーパーカップ準決勝でアトレティコに敗れ、指揮官の契約解除が発表される。シーズン途中の、事実上の解任である。
これは2014-15シーズンのスビサレッタの解任ブーストとは、意味が違う。あの時は、メッシとルイス・エンリケ監督の衝突に端を発した組織内部の歪なバランス、メディアの雑音とバルセロニスタの不安に対して、措置を講じた。加えて、会長選の前倒しという、ある種のトップの覚悟と誠意が感じられた。
だが今回、会長選の時期変更は宣言されていない。そして、バルベルデが去り、招聘されたのがキケ・セティエン監督である。クライフイズム(クライフ主義)の信奉者だ。ここにきて、バルセロナはクライフイズムに回帰しようとしている。かつて捨てた選択肢に、再び縋ろうとしているのだ。
ジョアン・ラポルタとサンドロ・ロセイ、会長選をめぐる2人の軋轢で、一度はクライフイズムを排除しようとした。「クライフ的なもの」が徐々になくなっていき、バルセロナは指針を失った。黄金時代を支えたシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタが退団し、ネイマールの移籍で、血で血を洗う如くお金でお金を洗うクラブになってしまった。
バルベルデの解任をめぐっては、メッシとスポーツ部門のエリック・アビダルが舌戦を繰り広げた。しかし、もう、クビを切る存在はいない。クライフイズムをセティエン監督一人に依拠するというのなら、もはやそれは暴挙に等しい。今季のリーガエスパニョーラ第25節エイバル戦、第27節レアル・ソシエダ戦、本拠地カンプ・ノウでは観衆が試合前に白いハンカチを振った。理事会への抗議の意味合いだった。
バルセロナが弱体化したか、否かーー。その答えは明白だ。この中断期間を経て、変化を受け入れる大きな決断を下せなければ、選択肢はひとつだけ。すでに示された道を、ひたすら進むことになる。