■43年後の感動ストーリー

 さて、この話には後日談がある。ハンガリーの人々にとっても、1953年11月25日のイングランド戦は伝説の試合だった。「無冠の帝王」イングランドをそのホームで破ったというだけでなく、プスカシュ、ヒデクティらの英雄がサッカーの母国で大きな尊敬を集めた日として、子どもたちまでよく知っていた。しかしこの試合をフルで見た人は、ハンガリーにはほとんどいなかった。

 1936年に世界に先駆けてテレビの本放送をスタートした英国では、1953年には視聴可能世帯数は214万にのぼり、全世帯数の12.7%にも及んでいた。試合はBBCで生放送され、多くの人がハンガリーの「魔法」を見た。しかしハンガリーではまだテレビ放送は始まっていなかった。人々は1週間後に映画館で約20分間の「ニュース」を見るしかなかった。フルマッチを見た人など、ほとんどいなかった。

 しかし試合から43年も経った1996年12月25日、ハンガリーの国営放送MTVがクリスマスの特別番組としてこの試合をフルタイムで放映したのである。「伝説の試合」を初めてフルに見たハンガリー国民は歓声を上げ、同時に涙を流した。

 映像は英国のBBCに保管されていたものを修復し、デジタル化したものだった。画面は粗く、前半には画面下部に黒い帯が入り、後半の部分はさらに画面が荒れた。しかしイングランドのサッカー協会(FA)とBBCは、「この試合は、ハンガリー国民にとって『国宝』と言っていいもの。ハンガリー国民の手に戻したい」と思い立ち、ハンガリーにプレゼントしたのだ。

 この年、イングランドは16チーム出場に拡大された欧州選手権(EURO)を開催した。イングランドにとっては1966年ワールドカップ以来の大きな大会であり、「Football’s Coming Home(サッカーが母国に帰ってくる)」という曲が大ヒットした。そしてあの「世紀の試合」も、初めて「マジック・マジャール」の「ホーム」に帰ったのだった。

PHOTO GALLERY ■【画像】ハンガリー代表の新発明、イングランド代表を沈めた新システム
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