■負けても広がる幸福感
27分にはゴールまで20メートルのFKをボジクが蹴るとプスカシュがわずかに触れてゴール。あっという間にスコアは1-4となる。イングランドはマシューズがチャンスをつくるようになり、38分にモーテンセンが2点目を決めたが、前半の45分間で両チームの力量差、サッカーの質の違いは明白だった。
後半、ハンガリーは5分にボジクが、そして8分にヒデクティが追加点を決め、6-2と差を広げる。イングランドは12分にロブがハンガリーGKグロシチに倒されてPKを獲得、これをラムゼイが決めて3-6としたが、以後スコアは動かなかった。
ロブと絡んだこの時のプレーでグロシチは左ひじを痛め、痛みに耐えかねて後半33分に控えGKシャンドール・ゲレール(ボロス・ロボゴ)との交代を余儀なくされた。ケガでなければ交代が認められなかったこの時代、交代はこの1回だけだった。
3-6。ウェンブリーで欧州大陸のチームに初めて敗れただけでなく、「10点入れられてもおかしくなかった」と言われる内容での完敗は、「サッカーの母国」にとって大きなショックだった。シュート数は、イングランドの5本に対し、ハンガリーは35本だった。
しかしサッカーを愛するイングランドのファンは、自分たちのチームが負けたことより、ハンガリーが見せた美しくエキサイティングなサッカーに心を奪われた。流れるようなポジションチェンジが生み出すサッカーは、イングランドの人々をとりこにし、試合の終盤にはハンガリーがパスを回すたびに歓声が沸いた。
そして翌日、母国に凱旋するためロンドンのビクトリア駅を発とうとするハンガリー・チームを見送るために数多くのサポーターが集まり、拍手を贈った。実際、イングランドの人々は、これまで経験したことのない素晴らしいサッカーを見ることができた幸福感に酔っていた。















