■気づかなかった「コーチング」
【67分の熊本の同点弾の場面】
ここでは、熊本にポケットを取られたことが水戸の最初のミスである。水戸DFの大森渚生は、対面する相手である豊田歩がカットインして中に入ってくることができないようなポジショニングをしている。
さらに、豊田が縦にドリブルするか、あるいは後ろから大西遼太郎がオーバーラップすることを見込んで、大森は「縦に行くぞ!」と、齋藤俊輔に左手を掲げてコーチングしている。
しかし、齋藤は、そのコーチングに気づかずに、ポケットに走り込む大西についていくのが遅れてしまう。
67分08秒の場面を見てもらいたい。大森は的確に齋藤にコーチングをしているのである。それなのに、フリーで大西にクロスを上げさせてしまった。これが最初のミスである。
2つ目のミスは、クロスをクリアしようとした水戸DF鷹啄トラビスのプレーである。ここはディフェンダーにとって判断が難しいところである。
水戸は、ゾーンで守っているので、最終ラインを整えるために、横にいる選手のポジションを気にしながらプレーしている。しかし、最後は人につかないと危険な状態になってしまう。
この場面は、もしも鷹啄がラインを崩して近くにいる熊本FW古長谷千博についていれば、得点は防げたかもしれない。
さらに、古長谷の近くに移動すれば、クリアのためにジャンプしなくてもいいし、後ろに板倉健太がちょうどクリアできるポジショニングをしていたのである。鷹啄の立ち位置が問題である。
鷹啄のディフェンスで気になるところは、ボールウォッチャーになることがしばしあることだ。瞬時の判断はディフェンダーにとって本当に難しいものだが、レギュラーポジションをつかみ取ったからこそ、判断を誤って欲しくないと思ってしまう。
【79分の熊本の2点目の場面】
古長谷のフリーキックがバーに当たって、跳ね返ってところを岩下航がヘディングでゴールに押し込む。
熊本の逆転弾は、フリーキックに対する水戸の壁の人数とポジショニングにあると言える。
キッカーのボールは、内側から巻いて左に蹴られているので、壁を4枚ではなく5枚置いてしっかり立たせる。なぜならば、キッカーのこの位置からは、クロスを上げるほど遠くないからである。限りなくクロスを選択する確率は低いと判断するべきで、壁の左端に立っている長尾の横をボールが巻いて通過しているので、この壁のポジショニングだと壁の意味をなさないのである。
失点するには、失点するだけの理由が存在する。今回の解説では、なぜ水戸が2失点したのかにスポットを当てた。
現在首位の水戸がこのままのポジションをキープできるかどうかは、新しく加入した選手がどれだけフィットするかにかかっている。新井、根本、仙波大志のプレーに注目したい。