■遅かった「給水」のタイミング
ハーフタイムには、のどの渇きでもう気が変になりそうだった。私はスタジアムを出て公園内の自動販売機に走った。だが無常にも、すべての飲み物に「売り切れ」の赤いランプが灯っている。ガックリとうなだれて記者席に戻った。なんとか後半を取材し、記者会見に出て記事を書き、東京の新聞社に送ってスタジアムを出たのは、午後10時過ぎだっただろうか。
私はあえぐように運動公園の端まで10分近く歩き、ようやく「売り切れ」ではない自動販売機を見つけた。すぐに小銭入れを取り出し、水を1本買うと、その場でグビグビと飲んだ。あっという間に500ccのボトルが空になり、私は手にしたままだった小銭入れからまたコインを取り出し、もう1本買った。それを半分ほど飲んだところで、ようやくひと息つくことができたのである。
真夏の暑い日、自動販売機で買う冷え冷えの飲み物ほどおいしいものはない。しかし、買ったばかりの500ccのボトルを一気に半分近く飲んでしまうと、「給水が少し遅かったな」と反省する。キャップを開けて100ccほど飲んで気が済むぐらいが、私の年齢ではちょうどいい「給水」のタイミングではないだろうか。
そう考えてみると、あの「甲府の夜」は、もしかしたら、本当に「危険」な状況だったのかもしれない。以後、何ごとにも臆病な私は、そんな危機に陥らないよう、記者室に行けば冷たいペットボトルが用意されていると知っていても、スタジアムに着く前にコインを片手に自動販売機に向かってしまうのである。