■「とにかく成長につなげてあげないと」

 石野智顕GKコーチは「育てる」ということを強く持った指導者である。それは、これまで務めてきた他チームのGKからの言葉を聞いていても強く感じる。そして、それぞれ今は他チームにいる教え子たちが出場すれば笑顔を見せ、怪我をすれば心配をする。その姿に、ある教え子GKは「お父さんのよう」と話していたことがある。
 筆者がその“父のような姿”を等々力で垣間見た瞬間がある。2月18日のCCマリナーズ戦のウォーミングアップ後のことだ。この試合で先発したのは安藤駿介で、控えには山口瑠伊と井澤明己が入っていた。当時の井澤は高校2年生で、ユース所属ながらACLEの規定もあって第3GKとしてベンチに入った。
 その井澤がロッカールームに戻る際、石野GKコーチが顔を近づけて何かを伝えていた。一言二言ではなく、何かを伝えようと言葉を必死に送り出している。特別な会話であることは容易に想像できた。
 その内容を、筆者は後に知る。特別なプロの舞台に立ち会えた中で感じてほしいこと、今後の成長のために何を見てほしいかが、井澤に送られていたのだという。
「とにかく成長につなげてあげないと」
 石野GKコーチは、そう振り返っている。
 そして、「彼だけじゃなくて、(福島から期限付き移籍してきている中川真)マコも含めて、ウチに来た選手には何かを感じて、大きく成長してほしい」とも続ける。その言葉の熱さは、とても心地よかった。

PHOTO GALLERY 全ての写真を見る
  1. 1
  2. 2
  3. 3