大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第153回【「奇跡の12ゴール」最強スペインが産声を上げた日】(5)将軍プラティニに敗れるも「不可能」を可能に、PK失敗のFWが決めた「最も価値ある」ゴールの画像
EURO決勝前日に17歳の誕生日を迎え、スペイン代表を優勝に導いたラミン・ヤマル。若き天才は、奇跡の一戦から始まった「最強スペイン」の看板を守り続けることはできるのか。撮影/原壮史(Sony α1使用)

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、17歳の天才ラミン・ヤマルの1得点4アシストの活躍もあってEUROで優勝したスペインが、苦しみから這い上がり、無敵艦隊へと名乗りを上げるキッカケとなった「奇跡の試合」。本当にあるんですね、そんなことが…。

■ついに「そのとき」が訪れた

 この後、マルタの1点を決めたFWデジョルジョがスローインのときの遅延行為で2枚目のイエローカードを受け、退場、スペインはさらに猛攻をかける。後半33分、中盤に引いたゴルディーリョから左ウイングの位置に開いたマセーダ(!)にパスが通り、マセーダが左足できれいなクロスを入れると、サンティリャーナとリンコンが跳び込み、ボールはリンコンの頭からゴールに吸い込まれる。

 そして、その2分後には、ボランチのサラビアが持ち上がって右に開いたカラスコに出し、カラスコが追い抜いていくセニョールに渡すと、セニョールが中央に送ったボールをサラビアが得意でない右足でシュート、ゴールを割った。11-1。ついに「あと1点」となった。残り時間は10分。誰もが「奇跡」が生まれようとしているのを疑わなかった。

 そして4分後の後半39分、ついに、そのときが訪れる。右インサイドをビクトル・ムニョスが持ち上がり、内側にサポートしたセニョールとのワンツーで抜け出そうとしたが、相手に防がれる。しかし、マルタのDFがかろうじて触れたボールが転がったところに、セニョールが走り込んでいた。ペナルティーエリアの縁あたり、17メートルから左足を振り抜いたシュートは、マルタ・ゴールの左隅を突き破った。試合開始直後にPKを失敗したセニョールだったが、スペインにとって最も価値のあるゴールを決めたのだ。

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