■森山佳郎監督が意外な回答
試合後の会見で、筆者は森山佳郎監督にいくつかの質問をした。その一つが、次戦、岡山戦で勝ちたい気持ちを聞くものだった。J1昇格を決めて喜びたいか、と。
その質問に、指揮官は「そうですね……」と即答を避ける。勢いのある言葉を予想していただけに意外だったが、次に出てきた言葉が森山監督らしいものだった。
「あまり、相手側に失礼にならないように静かにやるならいいですけど。選手には、喜ぶのは今日の夕ご飯ぐらいにして、自分の部屋に帰ったらもう次の準備をしないと、と言いました。今日、長崎の選手が本当に悔しい思いをして、みんなそれを慰めて、励ましに行ってくれたことはスポーツマンシップというかいい姿でしたけど、来週、僕たちがこれになるかもしれないと、こうなるかもしれないよっていう話はしましたし、実際その可能性は高いと思うんで、今、僕の中では全く喜べないし、次勝たなかったら泣くだけ。岡山さんもとてつもないエネルギーをかけてこられると思いますし、そこは策を練りたいなと思います」
スポーツには必ず勝敗が付く。そして、プロの世界である以上、その勝敗で人生も大きく変わる。勝った、負けただけの感情ではない。だからこそ、仙台の選手が試合後に見せた行動を森山監督は誇ったのだ。
仙台は昨季、J1昇格を目指しながら悔しい思いをした。目標にまったく届かないばかりか、J3降格圏に接近する順位でシーズンを終えたのだ。それから1年、チームは強くなっている。ピッチの上でも、そして、精神的にも。
森山ベガルタとファジアーノ岡山のどちらかしか掴めないJ1昇格という切符。どんな結果だったとしても、サポーターが誇れる行動を敵地で見せるはずだ。
(取材・文/中地拓也)