■起源はオオカミに育てられた「双子」
唐突だが、伝説では、ローマを建国したのは、オオカミに育てられた「ロムルス」と「レムス」という双子の兄弟だった。東京の味の素スタジアムに隣接する飲食施設「ポケットガーデン」のウッドデッキにオオカミの乳を吸う2人の赤ん坊のブロンズ像がある。どちらがどちらかわからないが、この2人の赤ん坊がロムルスとレムスである。
味の素スタジアムのブロンズ像は、都心の日比谷公園に置かれている「狼像」のレプリカで、こちらは、昭和13年(1938年)にローマ市から寄贈されたものだ。もちろん、日比谷公園のものもレプリカで、「本家」はローマにある「カピトリーノのオオカミ」と呼ばれる有名な像だ。
ただし、オオカミと2人の赤ん坊は、最初からひとつのブロンズ像としてつくられたものではないらしい。前者は紀元前5世紀の製作とも言われて作者不詳だが、2000年近くオオカミだけの像だったものに、15世紀になって、双子像を付け加えたというのである。双子像の作者はアントニオ・デルポライオロという彫刻家ということが知られている。
日比谷公園の像について、私はローマ市と東京市が姉妹都市になったことで寄贈されたものと思っていたのだが、今日的な「姉妹都市」の制度が始まるのは第二次世界大戦が終わった後のことで、東京とローマが姉妹都市協定を結んだのは1996年のこと。1938年というのは、2年後の「三国同盟(ドイツ、イタリア、日本)につながる、政治的な色合いを帯びたものだったのかもしれない。
ともかく、この双子が地域の部族を切り従え、やがて兄弟は仲たがいしてレムスが殺され、紀元前753年にロムルスが「ローマ王国」を建設して初代に王となった。現在のローマ市の中心部ほどの支配地域しかなかった小さな国ローマが、やがて国王を廃して「共和制」となり、イタリア半島全域を平定し、紀元前27年には「ローマ帝国」となって、全欧州と北アフリカを支配する大帝国となる。