■本間の優しい「分かってたよ」
24年10月6日、水戸はJ2第34節として清水と対戦した。他会場のゲーム次第ではあるものの、清水はJ1復帰がかかった一戦で、観客席は青とオレンジに埋まった。その熱気に包まれた競技場で、本間は9試合ぶりにベンチ入りした。出場することはなかったものの、すでに述べたようにその笑顔が印象的だった。
2-2で引き分けとなった試合の競技場から去ろうとする本間に取材をお願いすると、気持ちのいい笑顔で応じてくれた。いくつか話を聞いてから尋ねたのは、小林が衝撃を受けていたことについて。シュートストップについて報道陣に熱く語ってくれたことを話すと、本間はまず、「とんでもない選手が来たな」と当時の木山隆之監督(現・岡山監督)と驚きを持って会話したことを振り返ってくれた。
そして、「当時、週4でシュート練習しましたけど、学生時代からシュートはすごい上手でした。ただ、僕も当時まだ若かったんで、これがアマとプロの違いだよっていうのを見せたこともあります。でも、彼の持っているポテンシャル、体の能力やセンスは素晴らしかったので、水戸に留まる選手ではないんだろうなって思いましたよね」と、優しい表情と語り口で思い出す。
「当時、大学3年生だったので、J2でプレーするんだったら絶対に水戸に来いよ」
水戸のためになると考えてそう声を掛けたというが、小林が4年生のときに「J1からオファーが来ました」と挨拶を受けたという。
「分かってたよ」
本間が返したというその短い答えは、きっと優しさに包まれたものだったはずだ。その場にいなくとも、本間の言葉のトーンは想像できた。この日、本間に聞いた話のすべてに、水戸やチームメイト、サポーター、関係者への愛が感じられたから。
小林への回顧も、水戸のクラブやサポーターへの思いも、さらに言葉を尽くしてくれた――。
(取材・文/中地拓也)