なでしこジャパンに「ブラジル戦」逆転勝利をもたらした「力道山サッカー」(2)PKキッカー熊谷紗希と「途中投入の19歳」谷川萌々子の30メートル弾の画像
19歳の谷川萌々子(中央)がパリ五輪で大仕事を成し遂げた。撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)

 初戦のスペイン戦で敗北。第2戦のブラジル戦でも負けると、グループステージ突破が厳しくなる(各グループの1位2位と、A・B・C3グループの3位のうち、成績上位2チームがノックアウトステージに進出)なでしこジャパン。そんな大一番で、起死回生の勝利をつかんだチームを、サッカージャーナリストの大住良之は、「力道山サッカーで勝った」と愛情を込めて言う。その意味するところは? 勝負の分かれ目とともに試合を振り返りつつ、次戦のナイジェリア戦など今後のカギを握るキーパーソンにまで思いを馳せよう。

■日本のキッカー3人のシュートを全セーブ

 そして、この大会初出場の谷川萌々子が躍動し始める。
 後半43分、谷川自身が蹴った右CKははね返されたが、なでしこジャパンは素早く回収、左に展開して清家貴子がファーポストにクロス。これを受けた谷川は、相手を内側にかわして左足シュートを放とうとする。この「かわし」が、スライディングで止めようとしたブラジルのヤスミンの手に当たり、VAR確認を経て、この試合2回目のPKが与えられたのだ。
 前半のPKを蹴ったのは田中美南だった。4月のアメリカでの親善大会でブラジルと対戦したときにもPKがあり、田中が蹴った。だが、そのキックは甘く、中央やや左に蹴ったシュートはブラジルGKロレナに止められた。今回もGKはロレナ。田中は右にインサイドで蹴ったが、またもコースが甘く、止められた。
 ちなみにアメリカでの親善大会ではPK戦となり、ロレナは日本の3人のキッカー、清家、長野風花、そして長谷川唯のキックをすべてセーブした。
 パリ・パルクデプランス・スタジアムでのパリ・オリンピックの後半アディショナルタイム。ボールをセットしたのは、キャプテンの熊谷紗希だった。

 2011年ワールドカップ優勝のPK戦最終キッカーとなった選手だ。あのときには力いっぱい左上に突き刺した。だが、ゆっくりと時間をかけた熊谷は、前半の田中とほとんど同じコースに、強いインサイドキックでボールを送り込んだ。今度は、ロレナは逆に跳んだ。
 だが日本にとって「勧善懲悪」のドラマはそこでは終わらなかった。

  1. 1
  2. 2
  3. 3