■「指示が細かければいいってもんじゃない」

 続いてオールコートでの11対11。「ボールホルダーに顔を上げさせないようにプレス」「アンカーの管理をしっかりしよう」「ベストじゃなくてベターで取れればいい」と多少のミスがあっても前向きになれるような雰囲気作りに努めていた。

 最後は11対11のゲーム。この時は日本代表の森保一監督がやっているように、遠目からじっと選手の一挙手一投足を見守り、細かい指示は出さなかった。元トップ選手の中村には見えるものが沢山あるだろうが、大学生には分からないこともある。それをいちいち教えてしまうと、考えさせることにつながらない。「選手時代と指導者は違う」という明確な意識が今の彼から色濃く感じられた。

「正直、全然改善できなかった」と指導実践終了後、中村は苦笑を浮かべていた。

「指示が細かければいいってもんじゃないし、もっと分かりやすく提示しないと。毎日毎日いろんなことにトライして、他の人の意見を聞いてるけど、まだまだサッカーを知りたいっていう気持ちがホントに強いから」と彼は言う。誰よりもサッカーと真摯に向き合ってきた男がまだサッカーを知りたいと思うのだから、いかに指導が奥深いかがよく分かる。

 名将への道は一朝一夕にはいかない……。それが中村俊輔の今の偽らざる思いなのだろう。(本文中敬称略)

(取材・文/元川悦子)

(後編へ続く)

(2)へ続く
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