自陣の左タッチライン際にいたDF林幸多郎にパスが入った32分。FC町田ゼルビアのボランチ仙頭啓矢の脳裏には、先制点までの経路が浮かび上がっていた。
中盤の底にアンカーを配置する川崎フロンターレの攻略法として、アンカーの両脇に広がるスペースを自身が突き、攻撃の起点になる形を磨いてきた。
「まず相手のサイドバックを引き出せるのか、引き出せないのか。あそこで右サイドバックが食いついてきたら、そのまま幸多郎から一発のパスで背後、というのもあったし、あの場面では来なかったので僕が縦に入って、スピードのあるサイドハーフの選手を生かす、という形を考えていた。それがうまくはまりました」
リーグ戦初先発のアンカー、ゼ・ヒカルドの左側のスペースへ走り込みながら、仙頭は右手でパスを要求。林から引き出したボールをワンタッチで縦へ供給した。前方にはあうんの呼吸で、スピードに長けた藤本一輝がすでに走り出していた。
FW登録ながら左サイドハーフで起用されている藤本の間で、アイコンタクトの類は特になかったと仙頭は言う。あったのは川崎戦へ向けた練習の賜物だった。
「僕がボールを持ったときには常にあのスペースに走ってくれと、サイドハーフの選手には要求していました。練習からお互いのイメージが共有できたと思う」
川崎の右サイドバック、瀬川祐輔の裏を突いた藤本が絶妙のクロスを中央へ送る。戻ってきたDF高井幸大と動きが重なりかけたからか。GKチョン・ソンリョンもボールに触れなかったファーサイドで、町田のFW藤尾翔太が右足をヒットさせた。