コスタリカ戦の失点は「下がっていれば」防げた
ーーその場面を再生して見てみますね。(リプレー場面を見ながら)あっ、確かに、後ろに下がっていますね。
山野 読者の方もこの場面を再生して見てもらえばすぐにわかるんですが、ここで少し下がってポジショニングすることはとても重要なことです。もし、下がらなかったら、何が起こるのか?
2022年ワールドカップでのコスタリカ戦の失点場面を思い出してほしいのです。コスタリカの選手がゴール左上を狙って、左足でコントロールシュートを打ってきます。GKの権田修一選手は両手を上にあげてボールを弾き出そうとしますが、無常にも権田選手の指先に触れたボールはゴールに吸い込まれ、日本は0-1で敗戦してしまうのです。
このときの世論は、権田選手が両手でセーブしようとしたことが問題で、片手でセーブしにいけばボールを弾き出せたはずだ、という論調でした。しかし、私の観点では、両手とか片手とかが問題の本質ではなくて、コスタリカの4番の選手がボールを持ってシュート体勢に入る瞬間に、権田選手は後ろに下がってポジショニングしていないんです。もし、すぐさま下がって後ろにポジショニングしていれば、ボールをセーブできました。
GKのポジショニングの原則には、左右の動きだけではなく、上下の動きもあるんです。なぜ、下がらないといけないのか? それには、2つの理由があります。まず1つめは、下がらないと、GKの頭の上が空くことになってしまうからです。頭上を越えるシュートを決められるリスクが高まります。もう1つは、シュートに対して前に立つのと後ろに下がるのとでは、シュートがGKの位置まで到達する時間が異なるのです。ほんの一瞬ですが、この「一瞬」が極めて重要です。ポジショニングを後ろにすることで、シュートに対応する時間と距離を稼げるんです。
難しいタイミングで、しかも速い北朝鮮のシュートだったんですが、鈴木選手の動作を見ると、完全に準備万端でした。ポジショニングを下げて万全な準備をしていたからこそ、ボールに触れられたんだと考えます。
セーブした後の立ち方もよかったです。すばやく立っていました。左側に飛んで、下にある膝を折り曲げながらスッと立っていった。ああせずに、下の足の足裏から立ち上がろうとすると立てないんですよ。スムーズな動作ができていて、これは、よかった点ですね。全体的に見ると、バタバタ感もなく、ハイボールもきちんと処理できていました。