■監督のための確認道具
オシムさんは、常に選手たちに考えることを要求した。目で見て情報を取り込み、どうプレーするかを決める―。それがサッカーで「考える」ということだ。オシムさんの指導を受けたある選手は、「目を鍛えるためだったのだろう」と、その意図を推察している。
ただ私は、オシムさんのためのものでもあったのではないかと考えている。プレーが始まると選手たちは自在に動く。オシムさんは決められたポジションを崩すことで相手の守備を崩すことを求めた。ポジションがどう崩されているか、オシムさんが見るために、多色のビブスを使ったのではないか―。
たとえばサイドバックに赤、センターバックには青のビブスを着せる。右サイドバックの駒野友一がタッチライン沿いに上がっていくのは当たり前だ。だがその次の段階では、赤いビブスを着た駒野が前線で中央に動き、タッチライン際には青ビブスのセンターバック坪井慶介が上がっていく(そして坪井の背後には、黄色ビブスのボランチ鈴木啓太がカバーの動きをしている)。そんな状況ができているかどうかを、オシムさんは確認したかったのではないか。