■漢字を読めないベトナム人

 ベトナムも、そんな朝貢国の一つでした。そうした東アジア文明圏の国では官吏登用のために「科挙」という試験が行われていました。

 中国の古典に関する知識や教養を試される試験です。貧しい身分の者でも合格すれば出世が約束されますから、受験生は一生を科挙に懸けるわけです(もちろん時代とともに、身分は固定化されていってしまうのですが……)。

 中国の古典の“総本山”的存在である孔子をお祀りした「文廟」には、ベトナム人観光客もたくさんやって来ます。彼らにとっては日本の「天神様」と同じように受験の神様的な場所でもあります。

「文廟」には数多くの石碑が立っています。そこには、科挙に合格した人の姓名や出身地、合格した年号などが記されています。「どこの出身者が多いのかなぁ」などと思って見ていると、なかなか興味深いものです。

 しかし、そうした情報はすべて漢字で書かれているので、現代のベトナム人にはまったく読めないのです。それで、僕は石碑を見ながら、ベトナム人に対して変な優越感に浸っていました。

「オレは、ここに書いてある内容が分かってるんだぜい!」と。

(2)へ続く
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