■「女子にはサッカーをさせない」
おそらく、私が通っていた小学校の先生には、サッカー経験のある方などひとりもいなかったのだろう。小学生時代における私の「サッカー経験」は、3年生か4年生の「ラインサッカー」いちどきりだった。「簡易サッカー」が教科にはいっているはずの5、6年生時代には、サッカーはいちども取り上げられなかった。
ちなみに、この1958年の学習指導要領の改訂では、中学校の体育にも「サッカー」が採用されている。こちらは「ラインサッカー」などではなく、通常のサッカーではあったが、「男子のみ」となっていたことは、大いに注目すべきだと思う。小学生では体育の授業は男女いっしょに受けるが、中学になると男女別の授業になる。そして女子の体育にはサッカーは含まれていなかったのである。
「サッカーは男がプレーするもの」というのは、当時、世界の多くの国で常識だった。「サッカーは女性の健康に有害」という根拠のない説を信じている者も多く、イングランドをはじめとした多くの国では、女性がサッカーをプレーすること自体が実質的に「禁止」されていた。こうした「世界の常識」を背景に、日本でも、文部省の手によって中学生年代においては「女子にはサッカーをさせない」という「学習指導要領」がつくられていたのである。日本の女子サッカー史を考えるうえで、非常に興味深いエピソードではないだろうか。